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しばらく歩いていると、大きな木が現れた。木なんてそこらじゅうに生えているのだけど、その木は不思議と、他の木とは違う気がした。周りの木を押しのけるように枝を伸ばしたその大木は、たった一本でどっしりと立っていた。大きな幹からは、太い枝。そこからは細い枝。初夏の日の光を浴びたのか、青々とした葉が幾重にも重なっている。
孤高。そんな言葉が似合う木だった。私は思わずその木に向かって声をかけていた。
「なんだかあなた、寂しそうね」
私は、寂しくはない。父さまも、栄吉も公子も奉公人たちもいる。
嘘。寂しい。なんだか、とっても寂しい。
私は少し休もうと、その大木の下に座り込んだ。背負っていた駕籠を下ろすと、どすんと重そうな音がした。芋、人参、葱。味噌も少し分けてもらった。重いわけだ。
どうしよう。ここまでは勢いに任せて背負って歩いていたけれど、この駕籠をもう一度持ち上げる気力はもうない。
サア、と風が吹いて、木の葉が揺れた。さわさわと耳に心地よい音が鳴る。
まだ土地勘もないこの場所で道に迷ったら、普通はもっと焦ると思う。日も沈みかけているし。
それでも、私は妙に落ち着いていた。このままここで野宿でもいいかな。夜はまだまだ冷えるけど、死んでしまうような寒さじゃない。
いや、死んでしまってもいいのかもしれない。
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