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私は籠を枕に横になった。途端に眠気が襲ってくる。眠ってしまったら、そのまま目覚めないかもしれないなぁ、なんて考えたその時だった。
「こんなところで、どうしたの?」
声がして、私は咄嗟に体を起こした。
目の前に、男の子――男の人と言った方がいいかもしれない。とにかく、人が立っていた。たぶん、私より少し年上だと思う。肌が白い。小綺麗な袴姿。
「えええ、えっと、その……」
突然のことに驚いて私はしどろもどろになってしまった。
「その、道に迷って」
男の人は動じない様子で「どこに住んでるの?」と尋ねてきた。
「内川の近く。村の外れです」
「それなら、そこの坂道を降りると川沿いに出られるよ」
彼は、すっと右の方を指し示した。確かに、いつの間にか私は随分山を登ってしまっていたようで、下を見渡すことができた。少し遠くに、今朝洗濯をしたと思しき川が見える。
「あの、ありがとうございます……」目的地が意外と近かったのがなんだか恥ずかしくて、私は消え入るような声でお礼を言った。
「君、もしかして父さんの農場の開拓団の人?」
「父さん?」
「そう。山縣有朋。僕は息子の山縣早太郎っていうんだ」
「え、ええー!?」
私は驚いて、文字通り腰を抜かした。
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