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雨の精
ポツリ、ポツリと雨粒が地面に達すると共に、あたし達は地上に降り立つ。
地上の水溜まりは、あたし達の足跡。
夕立は、あたし達の気まぐれ。
あたし達の声は、普通のニンゲンには聞こえないし、姿も見えない。きれいなお花を咲かせて、ニンゲンは顔を隠しているから。
「はぁー。せっかく地上に降りたのに、何でニンゲンは顔を隠すの? カラフルできれいだけどさぁ」
「はぁ? そんなの、私達の温度がニンゲンの温度より低いからよ。傘ってやつを使わなきゃあ、ニンゲンは風邪を引いちゃうの」
「かぜ? 何それ?」
「全くアンタは……。風邪ってのは、まあ元気な状態じゃなくなるってことよ」
「へええ」
じゃあ私は行くからね、と飛び立つ友達を見送る。
あたしも何か面白そうなものでも探そう。
「──……うぅ、ぐすっ」
あらあら、傘を差さずに泣いている女の子がいるわ。
「ねえ、どうしたの?」
「あのねっ、お友達のチロがねっ、死んじゃったの……」
雨の日に傘を差さないニンゲンは、雨の精の姿が見える。あたし達は、そんなニンゲンを気に入っている。だって、こうしてお話が出来るから。
「チロはきっと、天国で君のことを見守っているはずよ。ほら、涙を吹いて」
声が聞こえたかは分からないが、女の子は袖口で目の辺りをグイっと擦る。
そろそろ別の場所へ移動しようかしら、と思ったとき、女の子が口を開く。
「妖精さん、ありがとう!」
まあ、悪い気はしないわね。精霊だけど。
「ふーっはっははっは!! 雨だー!!」
「あっははははは! あんた馬鹿なの? 面白いわねぇ!」
「お、妖精さんではないか! 今日も小さくて愛らしいぞ!」
だから精霊だって。
このニンゲンは、雨が降るなり傘を投げ捨て雨を浴びる変人だ。
そのおかげで雨の度毎回会っている気がするが、このニンゲンはあまり気にならないらしい。
「毎度のように思うけどさ、風邪引かないの?」
「ははは、そうならないように鍛えているから問題ない!」
「うんそっかー」
雨の日に傘を差さないニンゲンは元気じゃない場合が多いけど、こいつに関しては別なのかもね。普段はどうしてるんだか。
……あら、そろそろ雨が止むわ。帰らなくちゃ。
***
「おーい!」
「あ、遅い! もう止みかけよ!」
「ごめんって。ねえ、今日はどんなニンゲンを見た?」
「へ? えーっと、傘を投げ捨てて接吻をする恋人同士がいたわ。あとお墓で泣いてる子」
「えー何それ、すっごい見たかった」
「あんたはどうだったの?」
「ふっふっふ、今日はね──」
これは、そんな雨の精の、日常の話。
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