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古城と花音が鎌倉の祖父の家を出て大阪に着いたのは、3時を過ぎていた。
手術の経過が思ったより良く、今日、母は退院する事になったのだ。
「すみません。遅くなりました」
彼は花音の母を見ると、申し訳なさそうに謝った。
「ううん。待つのも楽しいものよ。今ね、読書するのが嬉しいの。前は何をするにもすぐに疲れていたでしょう? 読みたかった本をどんどん読んでるのよ」
「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫、疲れたら休むわよ。この前までは病の体と長年付き合ってきたんだもの。そういうのは任せて。今は、本当に気分爽快よ!」
元気な母を見るのはとっても嬉しいが、あんまり張り切ってる様子を見るとハラハラする花音だった。
「それでは、帰りましょうか。退院手続きは……」
古城が言うと、花音の母が笑いながら言った。
「それは済ませました。大友さんが、今荷物を運んでくれています」
話していると、大友さんが病室に入って来た。
「奥様、お荷物、積み終えました」
「有り難うございます。大友さん、悪いけど、もう少しだけ待って下さいね」
「はい。奥様」
大友さんは、花音の母に返事してから、にこにこと笑って、古城と花音に頭を下げた。
目で「おめでとうございます」と祝福してくれている様だった。
花音も嬉しくて、にっこり笑い返して頭を下げた。古城も大友さんに感謝の気持ちを込めて会釈した。
その様子を見ていた花音の母が、手招きして花音を呼ぶと、小さな声で心配そうに尋ねてきた。
「花音、ちゃんとお話しできたの?」
「うん。できたわ」
花音も小さな声で、けれど、しっかりと返事した。
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