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目的の病室の前に立つと、花音は体を固くした。
「大丈夫? 僕が行こうか」
「いいえ、私、行きます。これは、私がしなくてはいけないと思うんです」
花音はキュッと口を結ぶと、病室の扉に手をかけ、深呼吸を一つしてから、扉を開けた。
中に入ると、薄暗い。下げられたブラインドの隙間から、光が差し込むのみだ。
古城は入室すると、すぐに電気を点けた。すると目を覆いたくなるような光景が、目の前に浮かび上がった。
そこ、ここに投げ捨てられた菓子袋やアイスクリームの空箱が、散乱している。
掃除をしてもすぐに食い散らかして、部屋を汚してしまうのだと、担当のお医者様が言っていた事を、花音は思い出した。
あの女を見ると、ガーガーといびきをかいて、ベットの上で眠っていた。性病のせいでかぶれているのか、入浴してないのか、股をばりばり搔きながら。
花音は思わず目を背けた。
(お母さんは?)
部屋を見渡すと、部屋の隅で小さくなって座っている古城の母を見つけて。花音は、駆け寄り手を取った。
「お母さん、行きましょう。ほら、これを見て下さい。だからもうここに居る必要はなくなったんですよ」
「え……本当に……?」
離婚届を見せられても、古城の母は、まだ、信じられないようだった。
「もう、この人の父親とは離婚したんです。他人なんです。関わる必要がなくなったんですよ。お母さん」
「ほんとうに? でも、どうやって……」
「さ、行きしょう」
「でも、そんな事、できるはずが……」
花音は、うろたえる古城の母を強く抱き締めて言った。
虐待され続けた恐ろしい生活の中で、自分を見失ってしまっている母の姿に、花音は涙が溢れて止まらない。
「大丈夫です。古城さんがすべて解決して下さいました。もう、何も心配いらないのですよ」
それを聞いた古城の母は、信じられないといった表情で古城を見つめた。古城の態度は冷たかったが、母の目からは温かい涙が零れ落ちた。
「さ、行きましょう! お母さん」
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