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「あ! お母さん!」
扉が閉まった途端に、古城の母は張りつめていた糸が切れたようにヘナヘナと、その場に座り込んだ。
「大丈夫ですか?」
古城の母は、何度も頷いた。花音は優しく背中を撫ぜて言った。、
「お母さん。もう大丈夫ですよ。もうあの人たちとは何の関わりもなくなったのですから」
「ありがとう。花音ちゃん、本当にありがとうございます」
古城の母は泣きながら、両手で花音の手を握った。
「私の力じゃないんです。古城さんなんです」
花音の言葉に、古城の母は息子に向かって 深々と頭を下げた。
「……贒、ダメな母親でごめんなさい」
「いえ、自分は何も」
古城のそっけない受け答えに、
「古城さん……!」
花音は責めるように古城を見たが、古城はそっと目をそらした。母から息子への言葉とは思えないやり取りだったが、それでも花音は嬉しかった。
ほんの少しだけでも親子の距離が近づいて欲しいと思っていた花音だったが、多くは望むまいと思ったのだった。
「……花音、どうだった?」
「ママ!」
病室の外で3人の様子を見ていた花音の母が大友さんに車椅子を押して貰って、声をかけてきた。
「大丈夫だったみたいね」
古城の母を見て花音の母がホッとしたように言った。
「はい。ありがとう。ママ」
「えらいわ。花音、よく頑張ったわ。古城さんも」
古城が会釈した。
「ママこそ大丈夫? 疲れてない?」
「平気よ。花音が頑張ってるんだもの」
そして、花音の母は古城の母のほうを向くと、力強く言った。
「早く、ここから離れましょう。こんな所に1秒だって居たく無いでしょう?……大友さん、お願いします」
「はい。参りましょう」
大友さんは花音の母の車イスの向きをゆっくりと変えると進み始めた。
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