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エレベータの前に来た。その反対側に、応接セットがある。
書類にサインするくらいなら丁度いいくらいの.....
「あの……、あれを......」
と言って、花音は古城を見上げた。なのに、古城はなんだろうというような目で、花音を見た。本当は分かっているのに知らんふりしているのだ。
「古城さん!」
「まあ、花音、”古城さん”だなんて」
「あ」
(そうだった。結婚したのに、私ったら、ずっと古城さんって呼んでたような気がする……)
花音は、急にどう呼んでいいのか分からず、
「えっと.....その…….」
古城は、ハハっと吹き出すと、胸ポケットから『離婚届』を出した。
花音はそれを受け取ると、古城の母に渡した。
「お母さん、この恐ろしい人から、ここに名前を書いてきて貰ったのは、私の旦那様なのよ」
「え?」
花音の言葉に小さく驚きの声を発すると、再び息子を見つめた。その瞳から流れる涙はぽたぽたと離婚届を持つ手を濡らした。
「さあ、早く名前を書いて、この人達からサヨナラしましょう……ね」
ボールペンを差し出す、花音の声にハッと気付いて、古城の母はそっと、呼吸を整えてから、改めて先に書かれた男の名前を見つめた。
「さあ、早く…」
花音に急かされて、酷い目に遭わされた男の横に、自分の名を書いた。
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