柚子

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 そもそも、12月25日に救世主(ハリストス)となるナザレのイエスが生まれたなどという記載は、新約聖書のどこにも記されてはいない。  大切なのは〝復活した日〟であり、もともと彼の誕生日についてはあまり興味がなかったらしく、初めてキリスト教会全体で教義の統一化が図られた紀元325年の第一ニカイア公会議においても、それにはまったく触れられることなく終わっている。  故にキリスト教会もこの日を誕生日(・・・)ではなく、あくまで「イエスの誕生を記念する日」であるとしており、一部のプロテスタント系教会ではクリスマス自体を認めていなかったりもするくらいだ。  つまりはだ。史実からすれば、クリスマスはキリスト教起源の祭ではないのである。  勿論、(セント)ニコラウスがプレゼントをくれる存在として付随しているのも後付けだ。  日本ではそれが当たり前だと信じて疑う者もないが、ロシアではジェド・マロースという別の爺さんだし、アイスランドではユールラッズなる12人の妖精だし、さらにはイタリアなど、それは魔女ベファーナの手による仕業であり、他方、セント・ニコラウスの記念日はといえば、本来、それは12月6日や19日など微妙に近しいが違う日である。  では、クリスマスがもともとはなんの祭であったかといえば、その一つはやはり古代ローマの時代、紀元一世紀から四世紀にまで遡る。  当時、帝国内では下級兵士層を中心にして〝ミトラス教〟という密儀宗教――即ち、入団者のみが参加できる秘密の儀式を伴った宗教が広く信仰され、しまいにはローマ皇帝からも信者が出るくらいの高い人気を集めていたという。  そこで信仰される〝ミトラス神〟は、イラン・インド神話の契約と司法と光明の神ミスラが元であり、ゾロアスター教の最高神アフラマズダーと表裏一体であるとも云われる。  この非常に力ある神の信仰が中東から西アジア、地中海沿岸にまで広がり、インドではミトラ、マニ教ではミフル、ギリシア・ローマではミトラスと、各地で微妙に呼び名や信仰形態の異なる神へと進化していった。さらには仏教におけるマイトレーヤー――弥勒菩薩、ユダヤ教の天使メタトロンなどもこの神が元となっているようだ。  そして、古代ローマにおいて12月25日は〝ナタリス・インウィクティ〟と呼ばれる、〝不敗の太陽神(ソル・ウィンウィクトゥス)〟の誕生を祝う冬至(・・)祭の行われる日であり、ミトラス教徒達はこの不敗の太陽神こそミトラスであると捉え、この一年で一番日の短い日に、ミトラス神が復活再生するのだとして大いに祝い祭った。  また、ミトラス神には「聖なる牛の供犠による、その流した血での救済」という救世主的な側面もあり、この〝犠牲による救済〟と〝復活再生〟という神格は、なにやらイエス・キリストの姿を髣髴させなくもないのであるが、このミトラス神の復活は一年で一番日照時間の短くなった――即ち最も弱まった太陽が、冬至を境に再び力を取り戻してゆくことの象徴でもある。  後にキリスト教の隆盛にともない、教会がこの古代ローマの冬至祭を吸収し、キリスト教化していったものがクリスマスであり、つまり、クリスマスとは本来〝冬至〟の祭なのだ。
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