ひとすじの光

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 わたしが小学校低学年のころから通っているタレント事務所は、かなり売れている歌手や俳優が所属していた。そして、デビュー前の若手を指導し養成するカリキュラムもしっかりしている。  今日の放課後は、事務所ビルのスタジオでダンスの授業が入っていた。週の別の日は、歌の指導や発声練習、筋トレや演技指導の授業もある。  ミュージカルのような舞台でも歌えると思ったわたしは毎日、あらゆる授業を貪欲に受けている。そのために、一週間のスケジュールがみっちり詰まっていた。  小学生のころは、養成所に通うために母についてきてもらった。どうしても歌手になりたいわたしのために、母は車で送り迎えをしてくれた。  ずいぶん甘やかしてもらったものだ。  中学に入ってからは、わたしはひとりで電車に乗って養成所に(かよ)った。高校一年生になったいまでも、毎日続けている。  母は、授業料もバカにならないと少々呆れ気味だが、放課後の部活動だと思って応援してくれている。  そう。いまのわたしは、家族も親友も応援してくれている恵まれた環境だ。  でも、自分のあとから養成所に入った子が、先に歌手デビューが決まったと聞くと、ふと不安を覚えてしまう。  どれだけ頑張れば、わたしの夢は叶うんだろう?  どんなに努力しても、このままデビューできない可能性が、もちろんある。その不安に駆られると、決まって考えてしまうのだ。  ――夢のために、どれほどの自由な時間を練習に費やしてきたことか。  みんなが遊んでいるときに。  漫画を読んでいるときに。  テレビを観て笑っているときに。  勉強をする時間だって、わたしは歌手になる夢のためにささげてきた。  犠牲にしてきたなんて言葉を使いたくない。  でも、十代のあいだにできることをやらずに頑張ってきたのに、夢が叶わずに全部無駄だったと思ってしまったら……。  前向きに。  根拠がなくても、努力で夢は叶うという自信を持って。  プラス思考で。  けれど、突然些細なことで胸の中に不安が広がり、気持ちが押しつぶされそうになる。
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