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カンニング
俺はプロだ。
なんのプロかというと、それはもう素晴らしいカンニングのプロ。
あと二分で期末テストが始まる。
教室は水を打った様に静まり返っていた。
神経をとぎすませ!
3…2…1……
キーンコーンカーンコーン
一斉に紙をめくる音がした。
もちろんその中に俺の音も入っている。
歴史のテストだ。
今日のために俺は血の滲むような努力の末、教室中をカンニングペーパー代わりにした。
黒板に紙を貼っておく?
そんな芸のないことはしないさ。
ほら、もうすぐ1問目の答えがわかる。
パッと前の生徒の机の中に入っている、スマホの画面が光る。
これは俺が事前にメールの予約送信を、設定しておいた証拠だ。
目を凝らす。
なるほど、I問目の答えは"スターリングラードの戦い"か。
テストはまだまだ続く。
アメリカの大統領の名前?
俺は瞬時に伸びをするフリをして、天井を見上げる。
そして解答用紙に書き込む。
他にも机の角っこ。
前の生徒の上履き。
文字のように見える、床のシミ。
まさしくプロの成し遂げる技だ。
問題も終盤に差し掛かった。
厄介なのが記述問題。
幸い答えは準備している。
この仕事、準備が9割。
突如吹き始めた風。
この時間に南西の風が吹くのは確認済みだ。
そして予定通り風は、開けておいた窓から吹き込み、試験監督の先生へ。
俺が先生を見たのと、先生のカツラが吹き飛ばされたのは、ほぼ同時だった。
ツルツルの頭には、マジックで書かれた文章。
今朝、先生が居眠りしている間に書いておいたものだ。
先生が顔を真っ赤にして、カツラを拾っている間、笑いを堪えている生徒が半分、いち早くマジックで書かれた解答に気付いて、答えを書き写しているものが半分。
もちろん俺は後者だ。
こうしてテストは、監督の先生の怒鳴り声とともに幕を閉じた。
俺が、解答用紙に名前を書き忘れた事に気づいたのは、ずいぶんと後になってから。
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