第1章 ゆる系バンド、発足。

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第1章 ゆる系バンド、発足。

初めて足を踏み入れる大学。せかせかと足早に急ぐけど、内心では怖気づいてる。門が近づいてきた、と考えただけで結構どきどきした。 自分の大学からそう遠くはない。むしろ、近所といっていい。だけど二年になった今まで、これといって用事もなかったし。他校の学祭とかにわざわざ行く必然性も感じなかった。地方出身のわたしにはその大学に進んだ親しい友人もいないし。 もっともうちの学校は女子大だから。規模の大きな共学の大学の空気を味わってみたい、っていう子はやっぱり結構いるらしく、そこの学祭に顔出そうよなんて声かけ合ってる人たちを秋頃にはそこここで見かけた記憶がある。かのんちゃんどうする?ってわたしも訊かれたけど。 「うーん。…まあ、あたしはいいや」 と肩をすくめてスルーした。わたしに声かけてきた子も、そうだよねぇ特に見たいものもないし。女子大だろうが共学だろうが大学は大学だし。言うほど違うもんでもないよな、とあまり乗り気じゃない様子で呟いて、その時はそれで話は終わったんだけど。 それからほんの数か月後。まさかたった一人でそこの構内に乗り込む羽目になろうとは、そのときは想像もしなかった。 見たところ門の脇にに受付があって、警備員さんが常駐してる。それはうちの大学も当然同じだから驚くことはない。…だけど。 うちの方が規模がこじんまりしてて門も狭いからか。学生は皆、そこでこんにちはぁ、と声をかけ挨拶して通過するのが普通だ。でもここの学校は正門もばんと広くて、守衛室にわざわざ近づいて覗き込みでもしなきゃ声をかけても届きそうもない。行き交う学生たちは何のこだわりもなく、平然と守衛室の前を素通りしていく。どうやらここではこれがデフォルトの流儀のようだ。 わたし、ここの学生じゃないけど。念のため受付に申し出なくていいのかな、と一瞬悩む。連絡をくれた約束の相手は、そんなの全然平気だよ、とこともなげに言っていた。のは確かだけど。 「だって、『もふか』さん俺らと同じ二十歳でしょ。どこの大学だろうが学生は学生じゃん。見た目で他大学の子だなんて絶対判別できるわけないよ。堂々と通過して大丈夫」 それに、敷地内にチェーンのバーガーショップやうどん屋、コンビニもあるし。近隣の人もそこは普通に使えるんだよ。だから明らかに学生じゃないってわかる人も平気で出入りしてるの見るけど警備の人いつもなんも言わないよ、と付け加えられた。 だからここでわたしが見咎められるわけない。と何とか自分に言い聞かせ、出来るだけ平然とした態度でようやく関門を突破できた。…はぁ。 無事構内に入れたら緊張から解放されて反動でぐったりとなった。勝手のわからない他人の領域って、なんだか気後れがする。 いやまだ敷地内に侵入しただけの段階だ。問題はこれから。わたしは受け取ったLINEの文面に目を向けて確かめた。 待ち合わせ場所は学生会館のロビー、だよね。 ぐるっ、と中庭から四方を見上げて、また思わずため息が漏れる。広々としたキャンパスに、複雑に入り組むように建ち並んだ数々の棟。…この中から『学生会館』を見つける必要がある、ってわけだ。 うちの学生なら当然知ってるだろ、とばかりにほとんど説明や看板のない建物だらけ。まるでダンジョンに迷い込んだ気分だ。実に、前途多難…。 「お。…迷いに迷った挙句の果てにようやくたどり着いた、ってその顔つき。さては『もふか』ちゃんじゃないの、君が」 「は。…です」
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