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その男は、いつだって己が生き残れないことを知っていた。
「ねむい」
遡る事300年前。勇者を筆頭とした旅団に包囲され、自らに向けられた殺気の渦中にあって、玉座から身じろぎもせず、悪魔王は緩慢にただひとことそう言った。
肩透かしを食らった勇者達が声を失っていると、頬杖のまま重い息を吐いて、瞳すら閉じてしまう。
「…………歴史は歴死」
己には〝終わり〟がないのだ、と悪魔王は言った。
死んだと思った次の瞬間には、世界のどこかで生を受けているのだと。
「あぁ、またか……と思いながら、自分ではどうすることもできない。魔力が発現する18歳の誕生日まで、同胞たちに手厚く護られて……あとは君達の知るところさ。悪魔王として担がれて、僕の力の恩恵を受けた同胞達が世界を蹂躙して、怒った神が勇者を選定して……そいつに殺される。いつもそう。それが僕の宿命みたいでね。どう在っても逃げられないんだ。…………もう疲れてしまったよ。休む暇もなく、生まれては殺されて、また生まれては殺されて。何千年も繰り返してきたそれを、僕は全部覚えてる」
ふ、と目を上げ、勇者を見つめて。
────ねぇ、君なら耐えられるかい……?
その、殺戮の象徴たる血色の瞳に滲む、憂いと哀しみ、そして深い絶望は、『最後の勇者』の心を動かした。
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