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助けて。
先週の金曜日。絵梨花からその相談を持ちかけられたとき、正直、《そんなこと、自分で何とかしなさいよ》と思ったことを、あずみは今、めちゃくちゃ後悔している。これは、自分だけで何とかできる問題じゃなかった。生半可な気持ちで、できることでもなかった。
毎日、電車で痴漢されてる。
相談を持ちかけてきた絵梨花は、特に目立つタイプでもなく、むしろどちらかと言えば大人しいほうだ。ブレザーのボタンはきっちりとめ、スカートの長さもひざより下。
あずみのほうがむしろ、スカートはひざ上十五センチだし、意味不明な校則で禁止されてる黒タイツを愛用しているし、長い髪で隠した耳にはピアスを開けている。髪が褐色なのは生まれつきで、染めてる訳じゃないけれど、ずっとそのせいで教師からは不良扱いされてきた。なら、そっちに寄せたほうが楽だ。いちいち誤解を解くのは面倒くさい。
それはともかく、正直、絵梨花より可愛い自信があった。
しかし、痴漢に遭ったことはない。
絵梨花が痴漢に遭ったということは、彼女のほうが男から、そういう対象として見られていたということに思えて、ムカついたのだ。
でも、
絵梨花は本気で困っていた。辛そうだった。
誰にも相談できなかったの。あずみちゃんなら、信じられるから。
そんなふうに言われて、つい、「いいよ。あたしが痴漢を捕まえてあげる」って、安請け合いをしてしまったのだ。
余裕よ。触ってきた手を捕まえて、《痴漢!》って叫べばいいだけでしょ。
こう見えても、中学までは合気道を習ってたんだから。
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