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絵梨花が痴漢に遭うのは、決まって登校時の満員電車らしい。
あずみはいつも、自転車通学だから、電車に乗ることはない。
相談を受けた翌週の月曜日から、同じ電車に乗ることになったのだが、それが最初の後悔ポイントだった。
とにかく息苦しい。押し合いへし合い、身体も押しつぶされそうだ。
絵梨花とは少し離れて、他人のふりをして乗ったのだが、すぐに人ごみに埋もれてお互いの姿は見えなくなった。
これでは確かに、痴漢に遭ったときに声を上げるのは一苦労だ。触られたとしても、誰の手だったのか判別するのはかなり難しそうだ。
結局、絵梨花はその日も被害を受けた。
あずみのほうには手を出してこなかったのか、手を出せなかったのか、それとも魅力がなかったのか。
火曜日。
あずみは昨日よりスカートの丈を短くして、ブラにパットを入れ胸を盛って、同じように乗り込んだ。もともと、絵梨花より胸はあるほうだが、二人で並ぶとさらにその大きさが際立つくらいに。
しかし、結果は一緒だった。
水曜日。
今度は絵梨花に、いつもより地味なコートを着せてみた。いつも絵梨花が来ているファー付きのダッフルコートじゃなく、中年サラリーマンが来てそうな、地味なベージュのダスターコート。
一方、あずみは普段は着ない、丈の短いダウンジャケットで、よりスカートの短さを強調するような格好で挑んだ。寒いけれど、生足にした。
それでも、結果は一緒だった。
こうなるともう、痴漢男は最初から絵梨花を狙っているとしか思えなかった。
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