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そして今日。
あずみはスカートをひざ下にし、地味なダスターコートを着込み、絵梨花がいつも巻いているピンクのマフラーで顔を半分隠して、電車に乗り込んだ。
逆に、絵梨花は明るい茶髪のショートウィッグをつけ、あずみがいつも愛用しているキャメルのロングコートに、マフラーは片ちょう結びにして、女性専用車両に乗ることになった。
マフラーは昨日、渋谷で買った。赤と緑というクリスマスカラーのチェック柄。109を散策してたときに見つけたマフラーは、《可愛いけど、私には似合わないよ》と絵梨花が言うので、あずみが即買いしてプレゼントしたものだ。
昨日までは駅で待ち合わせだったが、今日は早朝から絵梨花の家に行き、全身あずみがコーディネートした。絵梨花は恥ずかしそうだったが、姿見に写る自分の姿の変わりようを見て、ちょっと嬉しそうだった。
あずみはホームにいるときから、気づいていた。自分に誰かの視線が向けられている。それは今まで、経験したことないほどに執拗で、粘着質で、ただ見られているだけで不快になる視線だった。
見られているだけ。男はみんな、女をいやらしい目で見てくるもの。そんなふうに考えていたけど、好奇の視線と加害の視線は、こんなにも違うものなのか。
絵梨花は毎日、こんな視線にさらされていたんだ。
自分の考えの甘さを呪いたくなるが、しかしここまで来た以上、あとには引けない。絶対に、絵梨花の仇を取るんだ。
電車が揺れる。
そのたびに、後ろから圧を感じた。
身体が固まった。
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