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「証拠がどこにあるねん! 言うてみい!」
男は関西弁で怒鳴る。勢い良く唾が飛んできて、あずみは思わず顔を背けた。
男は風邪をひいているのか、くしゃみ鼻水を何度も素手で拭っていて、それも、ものすごく不潔で不快だった。
何の騒ぎ?
痴漢らしいよ。
女子高生が、電車で痴漢を捕まえたって。
朝っぱらから、ホームで騒ぐなよな。
そうそう、ただでさえ混んでるのに、邪魔なんだよ!
この、十分の遅延って、そのせい?
どんだけ人に迷惑かかってると思ってるんだよ。
あーあ、あのサラリーマン可哀想。痴漢ごときで人生傷モノだな。
本当に痴漢されたの? そんなに可愛くないぜ。
痴漢だって、相手選ぶっての。
冤罪だったらどうするんだろうな。
慰謝料狙いなんじゃね?
雑音。
そう、自分に言い聞かせる。
そうでなきゃ、泣いてしまいそうだったから。絵梨花から借りたマフラーに顔を半分埋めて、それでもあずみは、眼だけはしっかり男を見据えていた。絶対、赦さない。
だってコイツ、常習犯だから。
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