第2章 鮮血のハイブリッド

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『よし。ではまずは結論から言うとしよう。朱咲未散、お主は“準血種(セミ・ブラッド)”ではない』 「……は?」 『であれば、“純血種(シン・ブラッド)”なのか? 答えは否。いやはや、お主のような異端(バグ)は儂も初めて目にするものでな。どう分類したものかと今も悩んでおる』 「え……えッ?」 『“叡智”はあくまで“総てを識る力”。未知なるモノに名前まで付けてはくれぬ。そこで儂は考えた。宿──ハイレベルにしてハイブリッド。そこをもじって便宜的に“混血種(ハイ・ブラッド)”とでも呼称するとしよう、とな』 「……ちょ、ちょっと待っ──」 「ええええええーーッッ!? ちょ、どどどどういうコトですかそれェ!? やめてくださいって言葉の波をワッと浴びせかけるのは!」  画面に映らない所で黙って未散と書架の通話を聞いていたミサキだったが、ついに我慢できなくなり女子高生を押し退けるように会話へ飛び入り参加する。 「ちょ、邪魔……!」  自分の頬にむぎゅぎゅとくっついていたミサキの頬をぐいっと退ける未散。 「アッごめんなさい、てか未散アナタほっぺたもちもちですネ。ってそうじゃなくて! む、むむむ無明院さん? 未散が本来“純血種”だとか能力が二つあるとか、何が何やらなんですが……??」 『くかか、やはりお主もいたかミサキ。丁度良い、未散が理由はお主にあるんじゃからな。心して聞くがよい』  †††  特異にして異端なるモノが生まれる原因には偶然や奇跡が付き物だと相場が決まっている。  そして、朱咲未散という吸血鬼が誕生してしまった根本には二つの大きな要因がある。  一つは、本来“純血種”である未散が高校生になっても自然覚醒しなかった事。“純血種”の自然覚醒とは、人間的に言うならば“乳歯が抜けて永久歯が生えてくる”というような──成長の過程で避けては通れないモノ。つまり未散は高校生であるにも関わらず、乳歯が抜け落ちずに過ごしていた状態だった──という事である。  そしてもう一つは、ミサキによる吸血行為──なのだが、恐らく未散はミサキ以外の吸血鬼に血を吸われても単なる“準血種”止まりだったかもしれない。これは半ば憶測めいたものだが、ミサキの固有能力・“開放”──森羅万象(ありとあらゆるもの)というその特性が、未散の深海よりも深い血の眠りをこじ開けたのではないか、と書架は結論付けた。  結果、生まれ落ちたのが純粋なる力とそれに準ずる力を併せ持つ第三の存在──“混血種”・朱咲未散というワケである。 「「…………」」  二人の吸血鬼(未散とミサキ)、絶句。 『くかか、お手本のような“鳩が豆鉄砲を食らったよう”な顔じゃな。うむ、予想通りのリアクションは大好きじゃ』  画面の向こうで書架はまるでホームコメディを見るかのようにクスクスと笑う。あくまで彼女は助言を授けるだけで、他人の背中を直接押すということはしない。 「う〜ん……色々ビックリ仰天の連続ではあるんですケド、特に気になるコトが一つあるんですが訊いてもよろしいデス?」 『なんじゃ? 申してみよ』 「えっと、無明院さんは未散には能力が二つあるって言いましたよね。二丁拳銃を出現させる力はワタシもこの目で何度も見てるので分かるんですが、もう一つは一体……?」 「……!」  衝撃の真実を告げられた未散は驚きのあまり言葉を失っていたが、ミサキは動揺しつつも書架に質問を投げた。それを隣で聞いていた女子高生は“言われてみれば確かに何だろう”と少しだけ困惑の波が引いて脳内が凪いでいくのを感じた。 『くかか、もう一つの能力か。よかろう、訊かれたのなら答える。それが儂の“叡智”の役目じゃからな』  書架は勿体ぶるような言い回しをする。 『まず“二丁拳銃の召喚”──これは未散、お主の“準血種”としての固有能力じゃ。そしてもう一つ、“純血種”としての固有能力は……』 「……ッ!? …………?」  そう言われても未散には思い当たる節が無かった。が、冷静に今までに能力()を使った時の事を思い出してみる。 (……私が銃を持っている時、体の奥底から“絶対に外さない”・“狙った場所に撃てる”っていう感じの謎の自信がいつもあった。なんとなくそれは吸血鬼としての力を行使してる万能感──強い力を振り回している高揚感から来るものだと思っていたけれど……まさか、が?)  未散は何かに気付いたような顔を書架に向ける。すると、スマホの向こう側にいる日本人形めいた吸血鬼は楽しげに笑みを滲ませる。 『くかか! 当たらずとも遠からずじゃな』  当然のように心を読むのはやめてほしい、と女子高生はちょっぴり辟易(ウンザリ)する。 『お主の力はメンタル面の強化などといった生半可なモノではない。使──それがお主の“純血種”としての能力の全貌じゃ』
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