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十月二十五日、午前八時頃。
ハロウィンが近いこともあり、街はそれらしき雰囲気が濃くなりつつあった。
登校中の未散はそこらの店にあるジャックランタンやコウモリなどの装飾には目もくれず、いつものようにコンビニへと足を踏み入れる。
彼女はこういった季節の行事には全くと言っていいほど興味は無いのだが、期間限定モノのスイーツが発売される事に関しては密かに楽しみだったりするのである。
「ぃらっしゃァせェーッ!」
入店した途端に耳に入ってきたのは、聞き慣れた──可能であればあまり聞きたくない声だった。できれば聞き間違いであってほしいと願う未散だったが、すぐさま声の持ち主が視界に入ってきた。そして途端に女子高生は露骨に嫌そうな顔をする。
「……げ」
「あ、未散じゃないですか。おはようございまっす。スイーツの調達ですか? なら、ごゆるりと品定めしてくださいな」
レジにいたのは栗色髪の吸血鬼──ミサキだった。コンビニでアルバイトをしている彼女は勤務中のみその長い髪を後ろで一本結びにしているのだが、今日はそこから更に三つ編みという手を加えていた。恐らく今日はそういう気分だったのだろう。
なんであんたがここに──と未散は言いかけたが、よくよく考えたらここに入店したのは私じゃないか、と彼女は出かかった言葉を飲み込む。
(……ぼんやり考え事をしてたからミサキがここのコンビニでバイトしてるのを失念したってワケ? 我ながら間抜けすぎるでしょ)
昨日、桐村咎愛から言い渡された任務──二人の野良吸血鬼への適切な対処を一週間以内にしろというもの。これをどのように解決するかを女子高生は昨日布団に入ってからずっと考えていた。
ゆえに、あまり熟睡できていない。であれば、甘い物とエナジードリンクの出番というわけである。未散は目当てのものを素早く手に取り、レジへと向かう。可能であればバカがいないレジに並びたかったが、とくに混雑しているわけでもないので女子高生は仕方なく栗色髪の吸血鬼がいるレジへと向かう。
「おやおや、まーたこういう組み合わせですか」
「……うるさい」
口より手を動かせ──と言ってやりたいと思う未散だったが、ミサキのバイト歴はそれなりに長いので、客と談笑しながらのレジ打ちなどお手の物。流れるように会計を済ませる。
「えー、お釣りとレシートのお渡しですネ」
「……レシートいらない」
「まあまあそう言わずに〜」
と、ミサキは半ば無理矢理にレシートを未散に押し付ける。思わず握られた手を振り払いたくなった女子高生であったが、妙な違和感に気付き手元に視線をやる。
見れば、レシートとは別にもう一枚の紙切れが未散の手に握らされていた。
「……?」
未散は怪訝そうに視線をそのまま上昇させる。
するとミサキは女子高生と視線が合った途端、何も言わずに静かにウインクだけを返した。
なるほど──今この場では話せない事かと未散は察し、レジ袋を持ってコンビニを後にする。
通学路へと戻り登校を再開する少女を見送りつつ、ミサキは小さく手を振りながら囁く。
「──いってらっしゃーい」
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