第1章 火炎なるエンカウンター

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 †††  昼休み。  学校の屋上というものは事故防止の為に立ち入り禁止になっている事が多いが、未散が通う上月(かみつき)高校は昼休みの時間帯のみ、屋上への立ち入りが許可されている。  とはいえ開放されるのは本校舎の屋上のみで、移動授業用の教室が集中している北校舎の屋上は昼休みであろうと変わらず閉鎖されている。 (……げ、もう先客が何人かいる)  今朝コンビニで買ったスイーツとエナジードリンクは早々に胃の中へ流し込んだので、未散は新たに購買で適当なパンとジュースを購入し、屋上へと足を運んだわけだが──。 (いや、むしろ先に誰かがいた方が自然と屋上(この空間)に溶け込めるし好都合か)  そう思いながら未散は屋上に備え付けられた幾つかのベンチのうち、隅の方にあるものを選んで座り込む。  他にも一人で昼食(ソロランチ)を極め込んでいる生徒もいれば、地べたにシートのようなものを敷いて数人で仲睦まじく食べている生徒らもいる。  教室や食堂に次ぐ、昼食を食べる為のエリア。ここへ誰が出入りしようと、誰も気にしない。そう、たとえそれが吸血鬼であろうとも。 (……まあ、私が吸血鬼だなんて誰も思ってないだろうし、気付きもしてないんだろうけど)  しかし木を隠すなら森の中。わざわざ見つかった時のリスクが大きい北校舎に忍び込むよりかは、本校舎の屋上で普通に昼食を食べている方がよっぽど“普通”に見えるだろう、と未散は判断したのだ。  彼女が今日この場所を選んだ理由は一つ。 (ミサキ(あのバカ)からのメッセは、教室で堂々と見れないからな……)  パンを咥えながら、未散はスマホを取り出す。通知は何も来ていない。 「……」  今朝、コンビニでミサキから手渡された紙切れには走り書きで── 【お昼休み頃に連絡します!】  ──とだけ記されていたのだが、今がその昼休み頃。だというのにメッセージは未だ届いていない。まさか自分から連絡すると言っておいて忘れるようなバカなのか、それとも私の中の昼休みとあいつの中の昼休みにはズレがあるのだろうか、と未散は眉間に皺を寄せる。  するとここで、短い通知音が鳴った。  未散は画面に視線を落とす。噂をすればなんとやら、ミサキ(登録名・バカ)からのメッセージが届いた。  ††† 【どーもです。今いけますか?】 既読 12:57【大丈夫】 【そいつは重畳。では手短に】 【週末って予定とかあったりします?】 既読 13:00【特に無いけど】 【これまた重畳。じゃー海に行きましょう!】  †††  唐突な文面に、未散の指がピタリと止まる。 「……は?」  女子高生は口に咥えていたパンを思わず離してしまう。食べかけの昼食はそのまま彼女の膝上に転がり落ちた。
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