第1章 火炎なるエンカウンター

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 マズったな、と未散は頭を抱える。  本来ならミサキ(あのバカ)から週末の予定など訊かれたら適当な嘘を吐いてやり過ごすところだが、今は事情が違う。もしかしたら任務絡みの話でもあるのかと思い、正直に予定は無いと返信したら何故か“海に行きましょう”というお誘い。  私は至って普通のやりとりをしていたハズなのに、一体どういう思考回路を備えていたら海に行こうという提案が出てくるのだろうか──と、女子高生は困惑と僅かな苛立ちに表情を歪ませる。 (……なんか返信するのダルくなってきた)  未散は大きく溜息を吐いて、肩を落とす。  学校の屋上という開放的な空間で、彼女の周囲だけ物憂げなオーラが漂っていた。  ††† 既読 13:04【海って、どういう事?】 既読 13:04【てか今10月だけど】 【別に海水浴に行こうってワケじゃないですヨ】 【今回の任務に必要な事なんです】 既読 13:06【それを早く言えバカ】 【(てへ♪的なスタンプ)】 【ともあれ詳しい話は放課後にでも!】 既読 13:08【はいはい】  ††† 「……」  海に行く事と任務がどう繋がるのかよく分からないが、とりあえず未散は信じる事にした。ミサキ(あのバカ)は冗談はよく言うしアホだが、悪い嘘は吐かない。女子高生は心のどこかでそう信頼を置いている(ほんの僅かだが)。  そうこうしている間に、予鈴が鳴り響く。  結局この昼休みで進展があったのは少しだけ。この週末、任務遂行の為に海へ行くというただ一点のみ。  とはいえ、現時点での未散に効果的な任務解決方法は無い。であれば何かしら考えがあるミサキに身を委ねるのが賢く、普通の選択肢と言えよう。 (……教室戻ろ)  膝に落ちたパンを口に放り込み、未散は屋上の出口へと向かう。他の生徒も同じく。ぞろぞろと他愛の無い話をしながら出口へと吸い込まれていく。そして、知らない女子生徒二人組の会話が、意図せず未散の耳へと侵入する。 「そういえば知ってる? この辺でバラバラ殺人事件あったらしいよ。めっちゃ怖いよね……」 「あー、てか殺人っていうか殺でしょ。確か首と四肢を切断されてて、それを右回りに一つずつズラしてホッチキスで留めてあったんだっけ」 「怖っ! 犯人もだけど、その状況を淡々と説明できちゃう祈理(いのり)も怖っ!」 「そういう蜜柑(みかん)は怖がりすぎ。夜に出歩かなかったら大丈夫でしょ。どうせすぐ捕まるって」 「そういう問題なのかなあ……」  分かりやすい異常性だな、と未散は心の中で思った。それよりも彼女は殺された犬の出どころが少しだけ気になった。野良犬なのか、飼い犬なのか。わざわざ飼い犬を拐って殺すリスクを負うとは思えないし、普通なら前者なのだろうが……。 (……って、どうでもいい。そういうのは警察(おまわりさん)の仕事だし)  たまたま耳に入ってきた話題に思考を割いているのが馬鹿馬鹿しくなった未散は教室へと戻る歩みを少しだけ早めた。
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