第1章 火炎なるエンカウンター

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「オススメねえ。得意科目が美術なら美術部にでも入ればいいんじゃないですか?」 「うぇ〜……? 美術部ってジッと座って絵ぇ描いてるだけでしょ? あたしそーいうの無理〜。もっとこうドンテンカンッて感じがいい!」  工事現場か何かか? とミサキは語彙力の乏しい女子中学生に呆れつつも、少しずつその性格を観察し分析していく。 「なるほど……もしかしてなんですが、アナタ小さい頃は積み木とかレゴブロックで遊ぶのが好きだったりしません?」 「え! なんで分かったの!? 先輩もしかして占い師? それともエスパー?」 「アッハハ、どちらでもないですヨ。ただのお節介焼きで、ちょっぴり察しが良いだけのしがないお姉さんですとも」 「ふーん。ひひひ、まあなんでもいいや! 確かにあたし、よくおもちゃ売り場に置いてあるブロック系のやつで遊んでたなー」  うんうん、と昔を懐かしむように薪菜は腕組みをしながら感慨深そうに頷く。過去を振り返ってしんみりするような歳じゃないでしょうに、とミサキはまた呆れたような顔をする。  益体の無い話をしているように見えるが、これこそがミサキの常套手段──“それなりな話術”と“まあまあな観察眼”を用いた、情報収集と時間稼ぎの同時進行。  まあ使い所は限られてくるのだが、今回のようなケース──ミサキの言葉に耳を傾け、さらに応じてくれる薪菜のようなタイプであれば、効果は期待できる。 (玖我薪菜(あの子)はさっき、ワタシの左目を“爆破した”と言った。という事はやはりあの時、目を潰された時の感覚はあながち間違いではないってコトか……)  狙撃による奇襲ではなく、眼球そのものが爆発したような感覚──。 (トリガーや規模は分かりませんが、とりあえず遠距離で自ら手を下さずに対象を爆発させる力……といったところでしょうか)  未散()咎愛()のように既存の武器を用いての遠距離攻撃ではなく、未知の超常によって引き起こされる遠距離攻撃。ああ──目に見えるだけでも二丁拳銃や百二十八刀流はわりと親切な能力なんだなー、とミサキは遠い目で虚空を見つめる。 「──でもさ」  と、オレンジ髪の女子中学生──玖我薪菜は区切るように告げる。 「あたし、ブロックとか積み木とかって作ってる最中は別に楽しいって感じは無いんだよね〜」  うーん、と思い悩むように薪菜は首を傾げる。 「ただ、ってあるじゃん? アレが一番(いっちばん)楽しいんだよね、あたし!」  ギシ、と裂けるような笑み。ギラつく歯列矯正器具。そして地獄めいた紅蓮の双眸。 (マズい……ッ!)  ミサキの全身から一気に嫌な汗が滲み出す。  中学生──分類的に子供というモノは御し易い反面、次の行動が予測できない。今の今まで普通に会話していたのに、唐突に牙を剥くことだってありえない話ではない。  ミサキは察知する。何が起きるかは分からないが、何かが起きるのは本能で理解した。 「──ね。、熱くないの?」 「え」  薪菜にスッと指を差され、ミサキはここでようやく気付いた。  。 「ッ!? あっつッッ!!」  ミサキは思わず燃えているスマホを地面に向かって放り投げた。手のひらに火傷を負ったが、潰された左目に比べると軽傷なので数分の内に完治(自己再生)するだろう。  まさか気付かれたのか? そう思いながらミサキは恐る恐る薪菜の方へ視線を向けるが、 「ひひひ、ナイスリアクショ〜ン!」  ぱちぱちぱち、と女子中学生は拍手喝采。  やはりその動作や笑顔にドス黒い邪気や突き刺さるような殺意は見受けられない。無垢で無邪気な、ゲーム感覚の残虐性。 (自分が悪いコトをしているって自覚が無いんだろうなぁこの子……うーむ、どうにも厄介というかなんというか)  早送りのように火傷が修復されていく手のひらを一瞥するミサキ。ここで左目の視力がようやく戻ってきたことを認識する。視界良好、されど状況は変わらず劣勢である。 「でもアレだね、やっぱスマホなんかが燃えただけじゃあ(なーん)も面白くないね」  拍手する手を止め、急にテンション低めのトーンになる薪菜。  この感情の起伏が読めない感じが怖いと思いつつ、ミサキは女子中学生の固有能力に対する認識を改める。最初は離れた所にあるモノを爆発させる能力だと思っていたが、どうやら“燃やす”という選択もできる辺り、何か発火系の能力を応用していると見た方がよさそうだ。  その口ぶりから察するに、スマホを燃やしたのはミサキの目論見を阻止する為ではなくただ単純に“手に持ってるスマホがいきなり燃えだしたらどうなるんだろう”という興味本位から来るものだったのかもしれない。 「へーえ? じゃあ参考までに、アナタ的には何が燃えると面白いんです?」 「ん〜……あたし的にはやっぱ建物かなあ。機械でガタガタゴットンッて作られたスマホより、他人(だれか)の手でドンテンカンッて作られた建物の方が壊した時の達成感? がダンチなんだよね!」 「……」  これは思ったよりタチが悪いかもしれませんネ──とミサキは辟易する。  芸術家というものは大きく二種類に分けられる。永遠の美を追求する者と、瞬間の美を追求する者。オレンジ髪の女子中学生──玖我薪菜は恐らく後者に分類されるタイプだ。  それも、自分で作ったモノではなく他人が作ったモノを破壊して悦に浸る部類の──災害じみた無自覚なる邪悪。
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