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自己再生が完了し、火傷の痕が綺麗さっぱり無くなった手の平を一瞥しつつも、ミサキはオレンジ髪の野良吸血鬼──玖我薪菜への警戒を一切緩めなかった。
(発火系の能力だってコトが分かったところで状況は特に変わらないんですよネ〜……。どの距離から、どんなモノまで燃やせるのか──その全容が明らかになっていない以上、ヘタに動けない)
少なくとも射程距離は約五メートル・攻撃対象はヒトの眼球からスマホまで・爆破または発火といった使い分けができる──そしていずれも観測した以上の力を行使できる可能性は充分にあり。
(あーもー汎用性の高い能力ってホンット厄介! ワタシなんてただなんでもかんでも開くだけの力なのに……戦力差ありすぎ!)
自分の能力の地味さ具合に嫌気がさすミサキ。潜入捜査といった分野では大いに役立つ“開放”だが、こと戦闘においては嘘のように役に立たなくなる。ましてや相手が遠距離タイプなら尚更だ。
「ダンチだかタワマンだか知りませんが、ワタシとしてはアナタみたいな危険因子を放置しておくワケにはいかないんですヨ──アナタに力の使い方を教えた奴も含めてネ」
「……!」
ミサキは王手を決める時のような心境で核心へと切り込む。薪菜は表情こそ崩さないものの、虚をつかれたように言葉に詰まる。
固有能力を使いこなす野良吸血鬼が、ミサキの名前を知った上で襲いかかってくる。これは明らかな異常事態。
(それにこの子は中学生──話した感じから察するに一人で色々計画できそうなタイプじゃなさそうですし、協力者がいると考えるのが妥当……)
なーんて適当に推理したけどアテが外れてたらどうしよう、と内心不安になるミサキ。目立つのが嫌だからわざと普通に振る舞うハイパーJKが身近にいるから余計にそう思ってしまうのかもしれない。一人で情報収集して独自に能力の使い方を熟知しているJCがいても不思議ではない。
「──ひ」
不意に、薪菜の口から一つの音が漏れる。
そしてその音は次第に沸騰する。
「ひひ、ひひひッ、ひひひひゃひゃひゃひゃひゃ! あ〜おっかし、やるじゃん先輩!」
膝をバンバンと叩き、腹の底からの笑い声を路地裏に響かせるオレンジ髪の野良吸血鬼。
「な、何がですか」
「ひひひ。いま先輩はさ、良い選択肢を選んだんだよね。先輩があたしの後ろに誰かがついてるって事を見破れなかった時は“よく焼き”にしていいよって言われてたんだぁ」
ワタシは肉料理か、というツッコミをグッと堪えてミサキは怪訝そうな表情で薪菜に問う。
「……へえ、誰にです?」
訊かれた女子中学生は特に出し惜しみする素振りもせず、ごく当たり前のように言う。
「んー? ヨハネ!」
「──────ッッ!!」
その名が耳に入った瞬間、ミサキは全身から体温を奪われたような感覚に襲われた。
ヨハネ。夜翅。榊葉夜翅。
ミサキが吸血し、人間から吸血鬼に変異した少年。そして、ミサキを吸血が必要になるほど瀕死の状態にまで追い込んだ犯人。そして巡り巡って、未散の人生を狂わせた要因。
ミサキが先刻から感じていた嫌な予感。それは──玖我薪菜の背後には榊葉夜翅の存在があるという事。
(嫌な予感って大抵の場合は的中しちゃうんですよネ〜……あーもーやんなっちゃう)
待ちに待った野良吸血鬼案件だというのに前途多難どころか最初からクライマックスなんですけど、と栗色髪の吸血鬼は頭を抱える。
(今回の任務、ワタシが思っているより遥かに根が深いのかもしれませんネ……)
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