第1章 火炎なるエンカウンター

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 †††  午後四時ごろ。 「……?」  学校を終えて帰宅し、玄関のドアノブを握った瞬間に未散は猛烈な違和感を覚えた。  鍵が──開いていない。 (って、鍵が閉まってるのは当たり前じゃん)  ふるふる、と頭を振って自分の中にいつの間にか絡み付いていたを振り払う女子高生。  家の中にはミサキ(バカ)がいる──つまり“開放”を使って不法侵入してそのまま鍵を開けっぱなしにしている、と未散は完全に思い込んでいたのである。  この数ヶ月、放課後に未散宅で待ち合わせする時はいつもそうだった。最初のうちは鍵を閉めろとミサキに注意していた未散であったが、いつの間にかそれが女子高生にとって“普通”になりつつあったのだ。  未散はスマホを取り出してミサキに電話をかけようとしたが、まるでめっちゃ心配してるみたいでなんかヤダなと思ったのでやめた。代わりにメッセを送ろうとしたその時──。  マンションのエレベーターの扉が開き、中からミサキがのそりと登場した。 「アララ、やっぱ先越されちゃいましたか」 「……あんた、何。そのカオ」  顔の左半分が赤黒く染まっているミサキをみて、未散はまるで汚い野良猫を見るような表情でそう言った。 「アッハハ、説明すると長くなるというかなんというか。とりあえず顔洗って歯ぁ磨きたいんで洗面所、貸してくれません?」 「……勝手にどうぞ」 「やたっ♪」  そう言いながら未散は玄関の鍵を開けて中へと入った。小走りで向かってくるミサキを待つことはしなかった。  †††  二人の吸血鬼(未散とミサキ)は吸血鬼の習性である歯磨きを済ませたあと、リビングにいた。 「……あっそう」  任務の処理対象の一人である玖我薪菜(くがまきな)と遭遇・交戦(一方的に遊ば(ボコら)れただけだが)した事や、隠滅課による情報操作が意外と手間取った事など、とりあえず昼にミサキへ降り注いだ災難の一部始終を矢継ぎ早に彼女から聞かされた未散の反応がこれである。 「って、そんだけぇ!? もっとこう、大丈夫? とかあるっしょ!? 左目を爆破されたりスマホを燃やされたりしたんですヨ!?」 「あー、まあ、ドンマイ」  伸びたラーメンみたいなテンションで未散は何も込もっていない言葉を口から出力する。 「うぐぅ……こんなに相手の事を何も考えてない“ドンマイ”初めてなんですけど……まあいいや」  まあいいんだ、と女子高生は静かに思った。 「ともかく、今回の任務は思ったよりも厄介ですネ。玖我薪菜には榊葉夜翅(さかきばよはね)と接点がある上、向こうは普通に危害を加えてくるし。できれば拘束してもっと情報を引き出したいところなんですケド……」 「ふうん」  興味なさそうな声色で未散は言うが、 「じゃあとりあえずそいつが死にたくなるほど痛めつけて情報を可能な限り吐かせて、それから始末すればよくない?」  右手の人差し指と親指のみを立てて銃の形にし、それをそのまま自身のこめかみに当てながら提案する女子高生。 「え、コワ……めっちゃ平坦な声でヤクザかマフィアみたいなコト言い出したんですけど」 「先に手を出してきたのは向こうでしょ? なら鉛玉ブチ込まれても文句を言われる筋合いは無いってコトだよね。それに──」 「それに?」 「──私、嫌いなの子供。特に生意気な奴はさ」  あ、多分この子はワタシみたいに迷ったりしないな、とミサキは確信した。中学生相手だからとか、その子が間違った道に進んでいるのを止めるべきかとか、そんな理由で未散が揺らぐわけがない。人間に戻る──その絶対的な目標の為に、女子高生は合理的に引鉄を引くことだろう。
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