第1章 火炎なるエンカウンター

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 ††† 「──じゃんッ!」  そう言いながらミサキが取り出したのは、なんの変哲もないスマートフォン。未散はそれが彼女のものだとすぐに分かった。 「……スマホ、燃やされたんじゃないの」 「ええ、見事なまでに燃やされてクッソ焦りましたとも。けれど、このスマホにはワタシと玖我薪菜(くがまきな)による数分の会話が録音されています。そんな重要な証拠を失うワケにはいかないので、ワタシは大慌てで公衆電話を探して巴きゅんに連絡したってワケですヨ」 「あー……なるほどね」  巴きゅん──円巴(まどかともえ)。未散やミサキのいる執行課とは別の部署──隠滅課に所属している少年だ。  彼の能力は壊れたモノを修復(元通りに)するというもの。様々な条件が存在するものの、証拠隠滅を生業とする隠滅課にとっては最適な能力とも言える。 「……で、どうするワケ?」 「ふっふっふー。そこで“海”ですヨ」 「……?」  ドヤ顔で何言ってるんだこいつ、と未散は訝しげな表情をする。  確かに今日の昼休み中、メッセのやりとりで海へ行く約束はしたが、それと今の話の流れがどう繋がってくるのか女子高生には見当もつかなかった。 「そういえば未散は“Vamps”日本第一支部がどこにあるかご存知ですか?」  知らないし、別にどうでもいい。そう思いながら未散は首を横に振る。 「まあそうですよネ〜、教えてないですし。実を言うと第一支部って北海道にあるんです──が、それも今は昔のお話。“Vamps”の中でも特に重要性が高い第一支部は、常に移動する巨大な潜水艦へと形を変えて今もどこかの海の中をユラユラ航行中、ってワケです」 「ふうん」  海と潜水艦。点と点が線で結ばれたものの、やはり全容が見えてこないので未散はいつも通りの無関心な返事をする。 「で、第一支部(そこ)の支部長さん──無明院書架(むみょういんしょか)っていう人なんですケド、そのお方に今回の任務のヒントを頂こうかなーと思ってるんですヨ」 「ヒント?」 「そ、手がかり(ヒント)。ワタシもよく分かんないんですケド超物知りな吸血鬼なんですヨ、あそこの支部長さんは。1を知れば1000まで分かる……みたいな? そういう能力を持っているそうで」 「……それ、ヒントどころかアンサーまで出てくるんじゃないの」 「うーむ、ワタシもワンチャンそうならないかなーと思ってるんですけどネ。まあとりあえず玖我薪菜の固有能力や対策を知る事ができればヨシ、それ以上の収穫があればラッキーかと!」  ぐっと親指を立て、良い笑顔でミサキは言う。  正直、情報収集については何一つアテが無かった未散。幸い、処理対象である二人の名前だけは分かっていたので、それを頼りに手繰り寄せるつもりではあったのだが、一人で個人を特定するのは流石に骨が折れるというもの。  今回は処理対象の一人・玖我薪菜に襲撃され生還したミサキ(このバカ)の悪運の強さと、他支部の上役に頼み事ができるコネとコミュ力に素直に感謝しておこう──と、未散は思った(決して顔にも言葉にも出さないが)。 「……ま、過度な期待はしないでおくよ」 「アッハハ、未散らしいですネ」
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