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十月二十六日、午前八時。
ミサキは未散宅の玄関前にいた。
約束通り、本日は“Vamps”日本第一支部へと赴く二人の吸血鬼。二人が所属する第二支部は複合商業施設の地下のそのまた地下に位置しているが、第一支部は海の中を常に航行し続ける巨大潜水艦。すなわち海へ足を運ばなければいけないのだが──。
「あー……未散アナタ、オフの日でもその格好なんです?」
メッセで玄関先に到着した旨を伝えたミサキは、未散からの『もうすぐ出るからそこで待ってて』という返事を受けておとなしく待っていたのだが、ガチャリと玄関を開けて出てきたのはいつもと変わらぬ格好の女子高生だった。
「……偉い人に会うんでしょ? だったらちゃんとした服装の方が普通かなって思っただけ」
「ふうむ。未散はアレですネ、服装自由の面接にちゃんとスーツで行くタイプと見ました!」
「……そういうあんたはラフな格好で行って周りから浮くタイプでしょ」
「アッハハ正解〜!」
否定する事なくケラケラと笑うミサキ。そんな彼女の服装は未散が言った通りラフなもので、肌寒い季節に適応する為の長袖パーカーにいつもと同じようなダメージジーンズという組み合わせ。
対する未散は学校の制服。濃紺のブレザーに、彼女が二年生である事を示す赤いリボンがアクセントとなっている。しかし着こなしはあくまで普通。スカートの丈は短くもないし長くもない。胸元を晒すような事もしない。どこまでも普通。
「いや〜しっかし未散の普段着を見れるチャンスだと思ってたんですけどネ〜、残念」
「……私の普段着を見て何があんの」
「あー、何があんのって言われるとアレですケド……うーん、新鮮さ? あっ未散そんな格好するんだ、みたいな?」
この数ヶ月、二人の吸血鬼は共に行動する事は多けれど、ミサキは一度として未散の普段着を見た事はなかった。
任務という名の雑用は未散の都合に合わせて放課後に済ませていたし、学校が休みの日はミサキが気を使ってなるべく会わないようにしていた。
なのでこうして学校が無い日に二人が会うのは地味にこれが初めてだったりする。
「……あっそう」
つまらなそうに言いながら、未散は家の鍵を閉めてエレベーターへと向かう。ミサキもそれに続く。
「で、今日の移動方法は?」
またトラックの荷台とかだったら嫌だなあと思いつつ、女子高生は訊く。
「今日は普通に電車移動ですヨ。一時間ほどかけて江ノ島に向かいます。いざ鎌倉、ってネ!」
「江ノ島」
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