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二人の吸血鬼が江ノ島に向かっている頃。
オレンジ髪の“準血種”──玖我薪菜はゲームセンターにいた。口の中で飴玉を転がしながら彼女がプレイしているのはガンシューティングゲーム。しかしその腕前は決して上手い方ではない。だが薪菜は特に気にしない。何故なら彼女はゲームクリアよりも、標的に弾丸を撃ちまくれる事に楽しみを見出しているからだ。
だから、自分がダメージを受けようが関係無い。体力が続く限り、無抵抗な標的に銃を撃つ事ができればそれでいいのだから。
「あ〜あ死んじゃった。ま、いっか」
大きな画面におどろおどろしく表示された“GAME OVER”の文字。それをつまらなそうに見つめながら、薪菜はまだそれほど小さくなっていない飴玉をガリゴリと噛み砕く。
「──やあマキナ。相変わらずクレイジーな遊び方だね。臆病者の僕には真似できないや」
いつの間にか、薪菜の背後には少年がいた。
空虚かつ柔和な笑みを浮かべている少年に、薪菜は特に驚く素振りを見せず、“よっ”という風に軽く手を挙げながら彼の名を呼ぶ。
「あ、ヨハネじゃん。ちっすちーっす」
まるで気心の知れた友人に接するかのようなラフさでオレンジ髪の女子中学生は挨拶をする。その少年の正体が、“Vamps”から指名手配されている大罪人──榊葉夜翅と知った上での対応だ。
「しー」
と、薪菜と比べて特にこれといった特徴が無い少年──夜翅は人差し指を立てながら言う。
「前にも言ったじゃあないか。僕のことは暫くのあいだ偽名で呼べ、ってさ」
「アレ、そうだっけ? ひひひ、ごめんごめん忘れてた。いま思い出した!」
「やれやれ、せっかくキミには覚えていてもらえるように弄っているのに……。どこかにメモでもしておきなよ」
「了解了解! で、偽名なんだったっけ? 偽名で呼べって言ってたのは思い出したけど、その偽名が思い出せないんだよね。ま、まが……?」
「凶井亜流人。それが僕の偽名さ──紛い物で、亜流な人外」
「アルト。アルト! ひひひ、アルト〜♪」
偽物の響きを、薪菜は楽しげに何度も口に出す。ガムを噛むかのように。
「んで、次は何を燃やせばいい? アルトの為ならできる範囲でやっちゃうよ! あたし、尽くすタイプなんだよね! 焼き尽くすタイプでもあるけどね、ひひひ!」
歯列矯正の装置が覗く屈託のない笑顔で薪菜はさらっと恐ろしいことを言う。
「マキナの気持ちは嬉しいけれど、キミはここで“一回休み”だ」
「えぇ〜つまんなーい! またオニヅカ先輩と遊びたかったのになあー!」
「何事にも順番はある。キミばかりが美咲と遊んでいては、他の皆が退屈になってしまうだろ?」
「むぅ……まあそうだけど。ってことはもう誰かが会いに行ってる感じ?」
「ああ、二番手はオビエを向かわせた。良い挨拶になるといいんだけどな」
「へーあの人かあ、意外。ひひひ、じゃあ目ん玉ボンバーの次は人体切断ショーだね!」
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