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†††
十月二十四日。
黒髪ショートボブ、しかし頭頂部は僅かに真っ赤(地毛)という逆プリン頭が特徴の女子高生──朱咲未散は、薄暗い路地裏にいた。
日の光も、人通りも、この場においては必要最低限。ゆえに、制服姿の未散がここにいるのは不釣り合いと言えよう。
腕を組み、壁にもたれかかり、つまらなそうに見つめる女子高生の視線の先には、どちらかと言えば路地裏という空間に合っている存在が。
「ジッとしててくださいヨ〜……」
そう小声で言いながら静かに且つゆっくりと前進しているのは、街で歩いていると五人中四人は振り向きそうな端正な顔立ちと腰辺りまで伸びた栗色の髪が特徴的な女──ミサキだった。
制服姿の未散とは違い、ミサキの着こなしはラフなものだ。体のラインが浮き彫りになるタイトな黒いシャツに、下はダメージジーンズ。タバコでも咥えていれば不良女として充分通用するかもしれない。
しかしながら、ミサキは煙草を吸った事がないし、吸おうと思った事もない。そんな彼女がジリジリと近付く先にいるのは──黒猫だった。
そう、ミサキは猫を捕まえようとしていた。と言っても野良猫ではなく、首輪が付いた立派な飼い猫である。
猫は既にミサキの存在に気付いており、ジッと彼女の方を見つめている。いつでもここから走り去ることができる体勢に移行し、警戒心を結界のように張り詰める。
「…………」
暫時、睨み合うミサキと黒猫。
そしてその様子を少し離れたところから横目で見る未散。
路地裏に漂う異様な空気。
そして、決着は一瞬だった。
「──てやぁッ!!」
ミサキは自分に秘められた全ての瞬発力を発揮し、猫に飛びかかった。
対する黒猫は逃げようとしたが、逃げられなかった。本来なら難なくこの場を走り去ることができたはずなのに、できなかった。
一瞬ではあるが、ミサキの人を域を超越した動きに気圧されたのか──彼女が人ならざる者である事を察知したからなのかは分からない。
ともあれ、ミサキは黒猫の捕獲に成功した。
「やたッ! 捕まえた! 未散〜! 猫ちゃん捕まえましたヨ〜! あとは飼い主のところへ無事に連れて行けば任務完りょ……あっコラ! 暴れないで! あば、あだッ! 引っ掻かれた!? うわ痛い、ジワジワ痛いんですケド!?」
「……はぁ」
未散は呆れたように溜息を一つ。
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