第2章 鮮血のハイブリッド

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 †††  “Vamps(ヴァンプス)”日本第一支部支部長・無明院書架(むみょういんしょか)。  その身に宿す固有能力は“叡智”。詳細は第一級機密事項ゆえに明らかになっていないが、端的に言ってしまえば“総てを識る力”である。  まず、書架に対して嘘や隠し事は絶対に通用しない。たとえ紙に書かれた虚構であっても彼女はそれを見抜く。  “叡智”を行使している間、書架は五感を通して得られる情報すべてに対して理解し、把握する事ができるのである。  言い換えれば“答えを導く力”。彼女はこの“叡智”を駆使し、全国の“Vamps”から寄せられる野良吸血鬼疑惑がある人物の情報を処理している。解像度が決して高くないたった一枚の写真から、その人物が人間か吸血鬼かを判別する。ニワトリのヒナの雌雄鑑別のように。 『──さて』  とまあスーパーコンピュータのような書架だが、そんな彼女にも数少ない楽しみがある。  それは、巨大潜水艦である第一支部が物資補給の為に浮上した際にできる“完全な自由時間”。  書架は補給作業が終わるまでの間、希望者を募っては誰かと“フリートーク(おしゃべり)”を繰り広げる。ある者は人生相談、またある者は占いのように。彼女の“叡智”を求めてやってくる。 『第二支部の鬼づ……ミサキじゃったか。くかか、咎愛(とがめ)は相変わらず仕事一筋か? まあ儂が言えた義理ではないがの』  そして、二人の吸血鬼(未散とミサキ)は、与えられた任務のヒントを得る為、書架との面会に臨んだ。のだが、 「アッハハ、まあそんな感じです」 「……」  未散は眉をひそめる。  面会は画面越しだということは聞いていたが、まさか話し相手の顔が見えないとは思っていなかったからである。  ミサキが話しかけているのは、書架の秘書である茶髪でスーツ姿の青年・九条麗慈(くじょうれいじ)──が手に持っているタブレット。画面は真っ黒な背景に赤い文字で“SOUND ONLY”とだけ表示されている。 (……なんかこういうの、映画で見た事ある)  ていうかこれ面会じゃなくて通話じゃない? と未散は心の中で冷静にツッコミを入れた。とはいえ相手は超重要人物。顔見せNGなのは当然といえば当然なのだろうが、どこか腑に落ちない女子高生なのであった。 『くかか、なんにせよ不変(変わらない)というのは佳いことじゃ。さて、閑話休題──本題に入るとしようか。お主は儂とどんな話がしたいのかな?』 「あっハイ、えっとですねぇ──」  会話はミサキに任せっきりな未散は黙って聞き耳を立てる。  画面の向こうから聞こえる声。聞く限りでは特に加工されている感じはない。であれば、どう考えても声の持ち主は若い女性。下手すれば私よりも年下なんじゃ? と女子高生は訝しむ。 (……そんな奴があの桐村咎愛(女狐)を“小娘”呼ばわり、か。世の中広い(上には上がいる)ってワケね)  しかし若い声に反して老人のような口調。そういえば以前、未散はミサキから熱く語られた覚えがある。見た目は幼いのに古風な台詞回し。見た目年齢と実年齢が噛み合わない、創作(フィクション)の中だけの存在。そういうのを確か── (……“のじゃロリ”って言うんだっけ)
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