第2章 鮮血のハイブリッド

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 ミサキがまず書架に訊いたのは、オレンジ髪の女子中学生にして野良吸血鬼にして今回の任務対象──玖我薪菜の固有能力についてだった。 『──フム、其奴の固有能力はまあ便宜的に“炎熱”とでも呼称しようか。爆発・発火・加熱……とにかく炎属性の十徳ナイフのようなものじゃ。強力ではあるがそれ故に発動条件がちと厳しめになっておる。実際に相対したお主ならなんとなーく分かるのではないか、ミサキ?』 「ぅえ?」  能力の正体が分からないから訊きに来てるのに何故か逆に問いを投げかけられ、虚を突かれるミサキ。  とはいえ、何も考えずにただ助言を求めにきたわけではない。ミサキは自分なりに、何度も頭の中で玖我薪菜の固有能力を推理していた。その結果として、ある可能性には辿り着いていた。 「あー、えーっと、多分なんですけど……“視覚”が関係してるんじゃないかなーってワタシは思ってるんですケド」 『くかか、概ね正解じゃ。玖我薪菜の“炎熱”は此奴の“視線”がトリガーとなっておる。見つめたモノを見つめた秒数に応じて燃やしたり爆発させる事ができるようじゃな。燃やすだけなら数秒、爆発させるなら数分といった感じか。さらに言うなら、対象のサイズによってその時間は変動する』 「と、いいますと?」 『大きいモノほど燃やすのに時間がかかるという事じゃ。爆発させるなら尚更な。ま、目玉ひとつ爆破するくらいなら数秒で済むのはお主が一番よく理解しているじゃろ』  皮肉めいた声色で書架は言う。 「アッハハ、確かに……」  こめかみをポリポリと掻きながら苦笑いを漏らすミサキ。 『さてさて、視線の先にあるモノ──つまりは目に見えているモノ全てが発火および爆破対象であるならば。その攻略法はなんとする?』  音声のみなので分からないが、多分いま無明院さんはニヤニヤしてるんだろうなあとミサキは思った。何せ向こうは既に“叡智”によって玖我薪菜の“炎熱”を解明し、それにどう対処すべきかの答えも得ているのだから。さながら頭を悩ませる解答者を見守る出題者の如き気分だろう。ちょっとSっ気があるなと思いつつ、栗色髪の吸血鬼は攻略法を考える。  そんな彼女を横目に、隣で静かに立っている女子高生(未散)は漠然とこう思う。 (……数秒見つめる必要があるなら、目にも留まらない速さで攻撃すればいいんじゃないの)  そう、たとえば──銃とか。  さらにその銃で両目を撃ち抜けば完全に無力化できる。未散は自身の“銃器召喚(能力)”と薪菜の“炎熱”の相性が最悪(最高)であることに薄々気付きはじめていた。 (……ま、一番良い方法は背後や超遠距離(視界の外)からの奇襲なんだろうけど。生憎と私の能力は暗殺(そっち)向きじゃあない)  なんとかこう、頑張ってサプレッサーを付けたり、スナイパーライフルとか出したりできないものか……と、未散は自身の固有能力(何も無い所から二丁拳銃を出現させるという力)のシンプルさ故の幅狭さにモヤモヤする。 (まあでも出てくる(モノ)はちゃんとしたやつだし、普通に後付けできるか。ああいうの、日本だとどこで売ってるんだろう)  てか組織(“Vamps”)の力を借りればそんな小道具(オモチャ)ぐらいすぐ用意してくれるか、と女子高生は思い至る。射撃訓練場があるくらいだし。 (……大体こっちは上から雑用押し付けられてるんだから、それぐらいやってくれないと割に合わないっての)  使えるものは使う。むしろ使い潰す。  遠慮なんて(モタモタ)していたら、人間に戻る未来など夢のまた夢だからだ。
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