第2章 鮮血のハイブリッド

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「……あの」  未散は小さく手を挙げて言う。 「私はその“攻略法”ってヤツ分かったんで、次の質問してもいいですか?」 「え、ちょ」  ミサキは急に喋り出した未散に驚く。  面会時間は限られている上に決して長くはない。そんな貴重な時間をミサキ(バカ)の長考に使うなんてもったいない──そう思った女子高生は思わず横槍を入れてしまった。 (……って、ああもう。面倒だから割り込むつもりなんてなかったのに)  制限時間のせいで逸ってしまったかな、と未散は自身の我慢弱さを反省する。 『………………………………………………』  書架からの返答は、どういうわけか無い。  波の音が辺りを包み込んだ後、麗慈が持つタブレットから声が発せられる。 『…………お主は、?』  しかしそれは、未散の問いかけに対する答えではなかった。逆に問いを返された。  だが書架の言葉は妙だ。誰だ、とか──何者だ、とか。そういう疑問を掻き分けて出てきたのが“何だ”という、曖昧かつ抽象的な質問。まるで未知の存在にコンタクトを試みるかのような言い方だ。 『──いや、よい。済まぬ、今のは忘れよ』 「……はあ」  何かよく分からないがとりあえず早く質問させてくれないだろうか、と未散は静かに思う。カウントはしていないが、もう残り時間は僅かなはずだからだ。 『さて折角じゃ未散──だったか? お主の知りたい事も時間が許す限り我が“叡智”にて解き明かしてやるとしよう』 「……ありがとうございます、では簡潔に。玖我薪菜の自宅の住所、それともう一人──凶井亜流人(まがいあると)について可能な限り情報をいただけませんか」  いつもの平坦な声のまま、女子高生はスラスラと言葉を紡ぐ。プライバシーなんてクソ喰らえといった風の要求に、隣のミサキは思わず若干引きながら小声で言う。 「うわあ未散ってば遠慮なしというか容赦なしというか、単刀直入すぎて清々しいですネ……通っている学校とかでもよかったのでは?」 「……なんでワンクッション置く必要があんの。それにあんた、襲われたのは昼間でしょ? 不登校の可能性を考えたら家の住所を訊く方が手っ取り早いでしょうが」 「あっ、なるほど」  ぽん、と手のひらの上に拳を置いて納得するミサキ。そんな可能性、少しも思い至らなかった。何事も冷静かつ俯瞰的に考える未散だからこその思考回路か、と栗色髪の吸血鬼は感心すると同時にちょっぴり慄く。 『くかか、知りたい事を解き明かすと言ったのは儂じゃ。個人情報であろうがなんであろうが教えてやろう。それをどう使うかはお主ら次第じゃがな。メモの準備はよいか?』 「いえ、覚えるので不要です」  当たり前のように言う未散。  赤の他人の住所を一度聞いただけで暗記できるのはどう考えても“普通”じゃない。しかもこの並外れた記憶力の高さは彼女が吸血鬼になる前から備えられていた機能。本人曰く、覚え方と思い出し方を上手くすれば簡単──なのだそうな。
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