第2章 鮮血のハイブリッド

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 †††  チェーンソーを武器として扱う。  そんなの、映画(フィクション)でしか見たことがない。  未散はそう思ったが、同時にこうも思った。  あんな派手な凶器、どうしても動きが大振りになるし、何より夜射刃帯重(黒髪おかっぱ女)の服装は着物。どんなに速く動けたとしても、見切る事ぐらいはできるハズだ。  ──などという女子高生の甘い考えは、真っ向から引き裂かれた。 「危ない未散ッ!!」  (ドン)ッ、と未散は隣にいたミサキに突き飛ばされた。そしてその瞬間に女子高生は我に返り、なんとか尻餅をつく事なく踏みとどまった。 (……嘘でしょ)  未散は自身の想像の遥か上を行く夜射刃帯重の動きに、完全に虚を突かれた。  まず、着物だから履き物は草履だと思い込んでいたのが間違いだった。電ノコ女が実際に履いていたのは編み上げブーツ。全力疾走しても何ら問題の無い代物である。  その上、着物姿でありながら一瞬で距離を詰めるほどの敏捷性・機動力・瞬発力。  吸血鬼としての身体能力をフルに駆動させた帯重の初撃。結果として、下から振り上げるようにして繰り出されたチェーンソーの先端部分は、天井を抉り突き刺さっている。 「()ッッ……だぁぁあ゛……〜〜ッ!!」  そして、激痛に耐えかねて床に膝をつくミサキ。ぼたぼたぼた、と決して少なくない量の血が流れる。その出処は、。チェーンソーによって乱雑に切断された彼女の手は、血溜まりの中心で車に轢かれた猫のように落ちていた。 「あらあら、縦半分に切り裂くつもりだったのに……これは予想外ですわね」  残念、と呟きながら帯重は天井に突き刺さったチェーンソーを引き抜かず、能力を解除して狂気なる凶器を掻き消した。 「アッハハ……アナタほどの強者(ヤベー人)から“予想外”を引き出せたのなら、手首一つぐらい安いってモンです。めっさ痛いですけどネ〜……」  強がりな笑みを浮かべながら、ミサキは床に転がっている切断された自身の右手を拾い上げる。そしてそれをそのまま断面同士をくっつける。ずちゅ、という生々しい水音が車内にへばりつく。 「うはぁ、意外と重いモンですネ、自分の手」 「……それ、どれくらいでくっつくワケ?」 「うーん、スパッて感じじゃなくてギャリギャリーって感じで斬られちゃいましたからちょっと時間かかるかもですネ……いだだ」 「……あっそう」  吸血鬼の標準装備・自己再生能力。  身体の一部を切断された場合、今のミサキのように迅速な対応をすれば30分もしない内に繋がり、元通りとなる。ミサキの場合、くっつけるだけなら約5分・機能が元に戻るにはさらに約5分ほどの時間を要する。今回は傷口がズタズタな為、恐らく15分ほどで右腕は戻ってくるだろう──と、栗色髪の吸血鬼は予測する。 「そういえば、(わたくし)ちょっとした疑問があるのですが……切断された貴女の手を燃やしたりしたらどうなるんですの?」  人差し指を顎に当て、首を傾げながら物騒な疑問を投げかけるおかっぱ着物女。 「あー、まあくっつける部位が失われた以上は生えてくるのを待つしかないと思いますヨ。ワタシだと多分何日もかかっちゃうかもですが、中には斬られた次の瞬間には新しい手とか足とかが生えてくる吸血鬼(ひと)もいるみたいですけどネ」 「あらあら、そんな方がいらっしゃるのなら是非とも戯れてみたいですわね。ズタズタのグチャグチャにしてさしあげますわ」  ウフフ、と上品な笑みを浮かべながら帯重は言うが、飛び交うワードは不穏なモノばかり。  この、絵に描いたような大和撫子の如き印象から見え隠れする(隠そうとしていないが)サイコっぷりに、二人の吸血鬼(未散とミサキ)は得体の知れない危機感を抱いていた。  楽しげに話していても、次の瞬間には首を切断しにかかってきそうな、底が読めない怪物と対話しているかのような感覚。 「でもまずは貴女達から──ですわね」
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