第2章 鮮血のハイブリッド

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 †††  かしゃん・かしゃん、と。  階段を下りるように桐村咎愛は自らの足元に刀を出現させては消していく。  そして、夜射刃帯重と同じ地平に降り立つ。 「上司、というコトは未散とミサキ(あの子達)より強いというコトでよろしくて?」 「当たり前やろ」  即答だった。 「き、桐村さん!? なんでここに!?」  電車内にいたミサキは突然の上司の登場に驚きを隠せず、思わず大声を上げる。 「あ? 仕事に決まってるやろ」  咎愛の服装は組織で見かける時と同じスーツ姿。銀髪を後ろで一本に纏めているのもいつも通りだ。トレードマークの煙草も健在。  いつもと違うのは、頭に狐面をずらして被っているという事ぐらいか。 「さ、説明は後や。仕事の邪魔やからさっさと見えへんトコまで退き。あんたらじゃ夜射刃帯重(この女)には太刀打ちできひん」  オブラートに包まずに放たれた言葉。  確かに、咎愛の乱入が無ければ未散とミサキは確実に致命傷を負っていた。実際、諦めの悪い未散でさえも諦めかけていたほどの窮地だった。  悔しいが認めるしかない。なにも格上相手に“同類殺し”を遂行する必要はない。ここで死んでしまえば全てが無駄になってしまうのだから。今は生きる為の、撤退を。切り替える事も大事だ。 「分かりました。行きましょう、未散」 「…………ッ」  二人の吸血鬼(未散とミサキ)は駅から走り去ろうとするが、 「あっ、お待ちになって」  まるで落とし物をした人に対して呼びかけるように帯重は言う。  それと同時に、チェーンソーを投げる。  走る二人の足を両断するように、今度はブーメランのように回転をかけて。  だがそれも、先と同じように数本の日本刀によって阻まれる。 「ふはッ、か。正直驚いたわ」  心底から小馬鹿にするような薄ら笑いを浮かべながら、咎愛は言う。しかし驚いたのは本当だった。  チェーンソーのような複雑なモノを二つどころか六つも出現させる時点で、夜射刃帯重という吸血鬼は規格外だからだ。 「けどまァ、これが限界でもあるやろ?」  ニタリ、と咎愛は嫌味な笑顔を零す。  彼女は率直に言って性格が悪い。図星を突かれて狼狽える相手を見るのが何よりの楽しみだったりする。  それに対して帯重は何も言わない。  熱が冷めたかのように、着物女は瞳の色を赤から黒へと戻す。それに呼応して、彼女が出現させたチェーンソーは全て消え失せる。 「いちいち能力を解除せな出したモンを消されへんのが下手糞な証拠やねぇ。力の使い方も知らへん野良猫風情が。ぶぶ漬けでもどうどす?」 「……あー、なんでしょう。貴女と話していると胸の辺りがむかむかしますわ」  魅力的とさえ思える帯重の微笑みは、完全に消失してしまっていた。全くの無表情。 「お遊び無しで斬り刻みますわ。邪魔なので」  瞳の色が紅蓮に染まる。  帯重の両手にチェーンソーが出現する。 「榊葉夜翅が同胞──夜射刃帯重。(わたくし)イライラ(胸のざわめき)を鎮めるべく、害獣退治を開始いたします」  地獄の嘶きが、無人の駅に鳴り渡る。  臨戦態勢に入った電ノコ着物女を見て、咎愛は手に持っていた短い煙草を吸う。そして煙を吐いてから、狐面で顔を隠す。 「“Vamps”日本第二支部副支部長補佐──桐村咎愛。組織の規定に基づき、対象を処理する」  用の済んだ煙草を指で弾いて捨てる。  それが地面に落ちた時こそ、合図。
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