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逃げた飼い猫を見つけだし、捕獲せよ。
それが、吸血鬼の吸血鬼による吸血鬼の為の組織──“Vamps”に所属している朱咲未散とミサキに、上層部から下された指令である。
正直、女子高生は心底辟易していた。そんな仕事、何でも屋とか探偵の領分だろうに、と。
二人に任務を与えた張本人──ミサキの上司こと桐村咎愛が言うには、
『依頼人が吸血鬼やからねェ。せやったら吸血鬼のウチらが依頼を受けて、サクッと解決するんが“普通”なんとちゃう? まァ猫の一匹や二匹、捕まえるんはそないにややこしないやん。
──同級生を殺す事に比べたら、な』
だそうだ。
そしてヘビースモーカー銀髪京女はクスクスと嫌味っぽく笑いながら、トドメに煙草の煙を未散へ吹きかけたのであった。
これは数日前の出来事だが、この時の一触即発ムードは今思い出しても胃が痛くなるレヴェルだったそうだ(ミサキ談)。
未散が咎愛に苛立ちを覚えたのは、同級生殺しを指摘された事でもなければ煙を吹きかけられた事でもない。ただ、銀髪京女が“この小娘はこう煽れば適当な口車でも乗るやろ”という上から目線で小馬鹿にした態度が気に入らなかっただけ。
まあその場はミサキお得意の“あまり上手くはない話術”で事なきを得たわけだが。
未散が“Vamps”執行課に所属してはや数ヶ月。同級生・蒼乃凪沙を始末して以来、彼女には未だ一度も“同類殺し”に繋がる任務を与えられていない────。
†††
「──くしゅんっ」
「ぶぇっくしょいぁ!!」
夕暮れ時の街並みを歩く二人の吸血鬼はほぼ同時にくしゃみをした。
「うぅ〜……流石にそろそろ上着が欲しい季節になってきましたネ……」
捕獲されて諦めたのか、すっかりおとなしくなった黒猫を抱えながらミサキはその身をぶるると震わせながら言う。
「ていうか、未散はしっかりブレザー着て冬仕様って感じなのに可愛らしいくしゃみしてましたケド、もしかして寒がりさんなんです?」
「うるさい。私のくしゃみの原因は多分その猫だから。……あまり近付けないでよね。私、アレルギーなんだから」
すん、と鼻をすすりながら未散は忌々しげに言う。今回の任務という名の雑用は猫探し。しかし猫アレルギーである未散はほぼミサキに任せっぱなしだったというワケである。
「おっと、そういえばそうでしたネ、失敬失敬。ではこの子のぬくもりはワタシ一人で独占させていただきます! うりうり、もう逃げ出したりしちゃダメですヨ? 可愛い奴め!」
頬擦りをして猫の体温とモフモフを堪能するミサキだが、当の黒猫は呻き声を上げて非常に迷惑そうであった。
「いやーワタシってばどちらかと言えば犬派なんですケド、猫は猫で良いですネ〜うんうん」
「……あっそう」
猫派でありながら猫アレルギーの為、近付く事もままならない女子高生はつまらなそうに言葉を返した。
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