第2章 鮮血のハイブリッド

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 地獄めいた駆動音は合計6個分。  そして避ける事を許さない六方向からの同時攻撃。いずれも当たれば重傷まちがいなしの凶刃。  生半可な攻撃がほぼ通用しないほど強くても、この包囲網は流石にどうしようもないハズだ。胴体切断とまではいかなくても、どこかの骨に乱雑な切れ目を入れるぐらいは──と、帯重は思っていた。 「────ッッ!?」  だがその目論見は叶わない。  6つのチェーンソーはまたしても日本刀によって阻まれた。それも、先程のように1つに対して数本というレヴェルではない。  1つのチェーンソーに対して19本。つまり合計114本もの日本刀が6つのチェーンソーの動きを止めたのだ。目にも止まらぬ速さで。 「な、なんですのこの数は……!? い、いえ数もですがそれよりも──」  天より降り注ぎ、全てのチェーンソーを刺し貫いた無数の刀に戦慄の色を隠せない帯重。  そう、。 「……?」 「なんでやと思う?」  腕組みをしながら咎愛は首を傾げつつ言う。  狐面をしていて表情は分からないが、きっと小馬鹿にするような薄ら笑いを浮かべているに違いない、と電ノコ着物女の苛立ちは加速する。 「し、質問を質問で返さないでくださいまし!」 「おーこわ。まァええわ、お勉強不足なお嬢様に優しいウチがネタバラシや」 「いちいち癪に触る物言いですわね」 「答えは──コレや」  こんこん、と咎愛は自身が被っている狐面を人差し指で小突く。 「この面にはウチの“(まじな)い”が何重にもかけられてるんや。“これを被れば死角が無くなる”、“これを被れば視界が広がる”みたいな感じのニュアンスを何重にも、な」 「な……!」  “(まじな)い”にそんな使い方があるなんて、と帯重は驚きを隠せなかった。やはり独学では限界がある。しかしだからこそ、“本物”を目の前で見て、吸収するチャンスがある。なに、離れた場所にチェーンソーを出現させる事ができたのだ。“(まじな)い”の応用なんてお茶の子さいさいなハズ──!  電ノコ着物女が思考を巡らせている時。  狐面の銀髪女は気怠げに思う。 (まァぜんぶ嘘やけど)  そう、咎愛が被っている狐面には種も仕掛けも無い。ただ単に視界を狭めるだけの小道具だ。  桐村咎愛が吸血鬼として覚醒したのは小学校に入学する前だった。そして自身の固有能力が日本刀を出現させるモノだと理解した途端、彼女は剣技を習得し始めた。苦手を補うより得手を伸ばすタイプなのである。  高校生になる頃、彼女は一度“壁”にぶつかった。誰もが成長の果てに辿り着く大きな壁。  咎愛にとっての壁とは、“死角からの攻撃にはどう反応すればいいのか”という生物としての限界に近いモノだった。 (今思えば簡単な話やったけどねェ)  戦闘中だが、咎愛はしみじみ思う。  死角からの攻撃にどう反応すればいいのか。  答えは単純明快。  目に映るモノ全てに反応できるなら、視覚は必要最低限でいい。視界を狭めて、その分を他の感覚に注げばいい。たとえば、直感とか。  とまあ、そんな感じで咎愛は壁を切り裂いたのである。視力を失ったら聴力が異常発達した、みたいな話を実践してみたらできた。ただそれだけの話。狐面を被った咎愛は絶対無敵・難攻不落。  夜射刃帯重は確かに規格外だが、桐村咎愛は規格外中の規格外。刀剣を用いた戦闘において、彼女の右に出る者は存在しない。  もはや勝敗は既に決している。  帯重は最初から敗北する運命にあった──否、これは勝負にすらならない。彼女は生きた災害に自ら飛び込んでいっただけにすぎないのだ。
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