第2章 鮮血のハイブリッド

20/24

35人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 ††† 「あ、やっぱりもう終わってますネ」 「……」  時間を空けてから駅に戻ってきた二人の吸血鬼(未散とミサキ)が目にしたのは、駅の出入り口付近で煙草を吸っている咎愛だった。 「ん──なんや、あんたらか」 「なんやとは随分な言われようですネ。桐村さんが邪魔だって言うから離れてたっていうのにぃ」  むぅー、と頬を膨らませるミサキ。 「……あの着物女は?」  辺りを一瞥しても帯重の姿が見当たらないので、未散は咎愛にそう訊いた。もう既に事後処理まで終わっているのか、と女子高生は思ったが──、 「あァ、駅のホームに」 「……?」  言葉の意味がよく分からない女子高生であったが、隣にいる栗色髪の吸血鬼はその意味を理解したようで、苦い顔をする。 「うへぇ……桐村さんに“影縫い”を使わせるだなんて、やっぱりあのお方トンデモ吸血鬼だったんですネ。くわばらくわばら」 「まァ確かに成長性においては右に出るモンはおらん勢いやったねェ。けどまァ1が10や100になったところでウチ(100万)には届かんワケやけど」  やはり二人が何を言っているのかあまり分からない未散であったが、彼女は自分の上司が自信過剰で傲岸不遜な人物だという事を再認識した。しかし決して足元を掬われる事は無いんだろうなという出処不明な確信もあった。  チープな言い回しになるかもしれないが、多分この女狐は──いわゆる“最強”と呼ばれる生き物なのかもしれない、と未散は静かに思う。 (……まあ、今回みたいな格上相手はこの女狐に上手く丸投げすればいいか)  使えるものは何であろうと使い潰す。そんな貪欲なスタンスでなければ人間に戻るなんて遠い遠い未来の話になる。 「っていうか! 桐村さんってばなんであんな絶妙なタイミングで登場したんです!?」 「あ? そらあんた、バレへんように遠くから見てたからに決まってるやないの」  ケロッとさも当たり前のように咎愛は言う。  それを聞いたミサキは鳩が豆鉄砲を食ったような顔のままギギギ、と錆びた機械人形の如く首を未散の方に向ける。未散も「……は?」という感情が顔面に張り付いた様子でミサキと視線を交わす。 「ハァーーーーッ!? ワタシ達がクレイジーサイコチェンソーウーマンに苦しめられているところをはじめてのおつかいのカメラマンみたいに遠くから見てたってドユコトーッ!?」  驚愕と怒りと困惑が入り混じる声と早口で捲し立てるミサキ。 「すぐに出ていったらあんたらの為にならん思てなァ。ホラ、よう言うやろ? 可愛い子には旅をさせよって」 「危うくあの世に旅立つトコでしたヨ!」 「……」  可愛いとか毛程も思ってないんだろうな、と未散はジト目になりながら思う。 「まァ、ウチがここに来た理由は話せば長なるから今はとりあえず割愛や。それよりも優先すべき話題があるからなァ」  煙草の火を消し、咎愛はゆっくりと未散を指差した。 「──ついさっき、未散(あんた)を“血答審問(けっとうしんもん)”にかけるよう第一支部から要請があった」 「……?」 「な……ッ!?」  初めて耳にするワードに、女子高生は首を傾げる。それに対して栗色髪の吸血鬼はその顔色を驚愕の色へと変えた。 「分からん事を調べる為に東奔西走するのは勝手やけど、なんや面倒な事してくれたやないの。──?」  太刀筋のような鋭い目線でそう訊かれても、未散には何が何だかさっぱりだった。  ただ、咎愛の言う通り何か面倒な事がこれから自分に降りかかるんだろうなという予感と、ほんの僅かな胸のざわめきが少女にはあった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加