第2章 鮮血のハイブリッド

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 †††  日本刀(桐村咎愛)VSチェーンソー(夜射刃帯重)。  この規格外達の戦闘による影響は、二人の吸血鬼(未散とミサキ)の帰りの交通手段にまで及んでいた。  まず電車は刀傷や電ノコ傷がそこいらに刻まれているため使用不可能。隠滅課による周辺の一般人の記憶操作に時間がかかる為、タクシーやバスもしばらく使えない。  となれば、“Vamps”独自の移動手段であるを使う他ない。スマホで連絡・即参上。荷台に乗ればあら不思議。吸血鬼を秘密裏に目的地へと運ぶカモフラージュトラックの完成である。 「……ああもう。どのトラックも乗り心地サイアクなのは変わんないってワケね」 「アッハハ、証拠隠滅コストの皺寄せですネ。運び屋なんて末端のお仕事──ましてやその乗り心地の改善だなんてコトに組織も予算を割いてられないんでしょう」  ガタガタと揺れる薄暗い荷台の中で、二人の吸血鬼(未散とミサキ)は益体のない話をする。 「にしても“血答審問(けっとうしんもん)”とはネ……」  どうしたもんか、という風にミサキは腕組みをしながら言う。 「……結局なんなの、ソレ」 「やーワタシも詳しくは知らないんですケド」  知らないのかよ、と未散はジト目になりながら無言で訴えた。 「以前、桐村さんから聞いた事がありまして──」  “血答審問(けっとうしんもん)”。  何やら仰々しい字面ではあるが噛み砕いて言うなら、総てを識る力・“叡智”を持つ無明院(むみょういん)書架(しょか)との一対一(サシ)での質疑応答である。  否──質疑応答、という表現では語弊がある。もっと端的に言うならば“観察”が正しいだろう。  書架の“叡智”は五感から得られる全ての情報を瞬く間に把握し、理解し、解き明かす。彼女がいれば辞書も、探偵も、研究者も不要なモノへと成り下がる。  しかし“叡智”は膨大な情報量を処理する特性上、脳への負担が大きい。なので書架は能力を使用する際、情報を得る感覚をわざと減らしている。  デフォルトでは“聴覚”のみだが、“血答審問”の際は“視覚”も使用する。 「──とかなんとか」 「ふうん。だから“面会(フリートーク)”では音声通話だったってワケね」 「いやーワタシ達の声のみで色々と分かっちゃうだけでも充分に凄いのに、まだ上があるって凄い通り越してなんかもうワケ分かんないですよネ」 「……ホントそれ」  桐村咎愛や夜射刃帯重を“規格外”と評するならば、無明院書架は“埒外”だ。製造過程でたまたま生まれたイレギュラーではなく、最初から違うモノとして生まれたエクストラ。  そんな一つ上の次元にいるような吸血鬼が私みたいな普通で目立たない組織の一員にいったい何の用があるのだろう、と未散は薄暗い荷台の中でスマホを見つめながら思う。 「さてさて、面倒なコトは隠滅課の下々に押し付けてさっさと帰った桐村さんによれば移動中に未散のスマホへ連絡が来るとのコトですが……」 「……ハ、私の連絡先もお見通しってわけ」 「うんうん、恐るべし“叡智”! プライバシーのプの字もありませんネ! アッハハ!」  おっかない校長先生の悪口を言うかのように二人は静かに笑う。  それとほぼ同時に、未散のスマホが着信を示す音を鳴り響かせた。  知らない番号だった。 「うっひゃあ……絶妙なタイミングですネ。ビデオ通話ですし、たぶん無明院さんでしょう」 「……」  画面を覗き込むミサキと無言で目を合わせ、静かに頷いてから未散は通話ボタンをタップする。そんな簡単な操作が、“血答審問”の始まりを意味していた。 『──お、繋がったか。なるほどなるほど。声色だけでは上手く掴めなかった全容も、今ならハッキリと分かる。ふむ、ふむふむ……うむ。お主、無愛想で冷淡な印象じゃがよく見れば子供っぽくて愛い面構えではないか。嫌いではない──むしろ好きじゃ、くかか!』 「……はあ、どうも」  子供っぽいのはむしろそっちの方では? と、未散は自分のスマホに映っている会話相手──無明院書架の見た目に対して素直にそう思った。  座敷わらしがそのまま現実に出力されたような見た目。それが桜色の液体に一糸纏わぬ姿で浮かんでいる。そのインパクトとポルノめいた印象で薄れがちだが、未散は冷静に思考を巡らせる。 『たぶん見た目年齢と実年齢は一致しないんだろうな……か?』  画面の向こうに浮かぶ書架は、全てを見透かすような赤い瞳で悪戯っぽい笑みを零す。  思考を読まれた未散は内心すこし驚くが、これぐらいは想定の範囲内と即座に切り替える。心を読んでくる相手と会うのはこれが初めてではないのだから。 「……ええ、まあ」 『あ〜〜〜〜、お主はアレじゃな。顔は儂好みじゃがリアクションは好かんな。普通ここは“こ、心が読めるんですか!?”という反応をするのが一般的というモノじゃろう、普通を装う異常者──朱咲未散よ』 「…………!」  幼い声ながらも、その奥に潜む“圧”が女子高生の全身に突き刺さる。画面越しでだ。実際に対面していたら恐らく呼吸の仕方を忘れかねない。 『くかか! そう身構えなくともよい。儂はお主の敵じゃあない。ただし味方でもない。だからこれからお主の“真実”について解き明かす事に対して何の遠慮も無い。お主がショックを受けようが儂は知らぬ。だが此度の“血答審問”は吸血鬼(我々)の世界にとって非常に重要なコトになり得る。だから話す。覚悟はよいな?』  随分と脅かすような物言いだな──と思いつつ、未散は静かに頷いた。
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