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未散の“純血種”としての能力。その全貌を聞いたミサキは自身の中にあった前提が粉々に砕かれた感覚を覚えた。
ギギギ、と錆びた歯車のようにミサキは未散の方へゆっくりと顔を向ける。
「ワタシ……未散が銃を普通に扱えるの、まあこの子ならそれぐらいできるんだろうなーって心のどっかで思ってましたケド、冷静になって考えるとそんなのありえませんよネ〜アッハハ……」
「……能力のおかげだった、ってワケ。うん、まあ私も妙に腑に落ちてる」
達観したような感じで乾いた笑みを浮かべながら女子高生は言う。
『一方の能力で武器を出し、もう一方の能力でそれを十全に使いこなす。くかか、実に合理的! 実に完成されたシステム! 面白いまでに噛み合っておる! おお“混血種”・朱咲未散よ、お主はいま我ら吸血鬼の世界に新たな可能性をもたらす存在である事を自覚した方がよいぞ?』
桜色の液体満ち満ちる水槽の中でありながら、舞台劇の如く大袈裟な身振り手振りで書架は告げる。
言われた未散は眉をひそめる。吸血鬼の歴史とやらがどれほど長く続いているかは知らないが、自分がいま最新かつ最初の特異存在である事を少しずつ実感し始めた彼女は憂鬱でしかなかった。
(……この事が組織に知られたら)
なんにせよ目立つこと必至。
それだけは、それだけは避けなければ。
「……あの、」
『安心せい、言いふらしたりなどせぬよ』
「あー……りがとうございま、す?」
だから息をするように心を読むのはやめてくれないだろうか、と未散は安堵と同時に嫌気が差した。
『儂は不変が好きじゃ。安定が好きじゃ。永遠が好きじゃ。お主のような存在が組織全体に知れたら、まず間違いなく吸血鬼の世界は揺れ動く。それを避ける為にも、この件については他言無用──第一級機密事項として扱う。これは“Vamps”日本第一支部支部長としての決定ではない。ごくごく個人的な、無明院書架としての我儘じゃ。だって何かが大きく変わる時って、めっちゃ面倒臭いんじゃもん。な?』
慣れたウインクと共に書架はそう言った。
この支部長、ひょっとして・もしかしなくても桐村咎愛より話が分かる人物なのでは? と未散は少しだけ書架に対する印象を改めた。
『さてさて、お主のその力──便宜的に“掌握”とでも呼称するとしようか。儂が今まで見てきた能力の中でも群を抜いて汎用性の高いモノじゃ、大いに役立てて活躍するがよい』
「“掌握”……」
確かめるように──噛み締めるように呟きながら、未散は何も握られていない自分の手のひらをジッと見つめる。
例えばこの手に拳銃ではなくナイフを持てば、私はガンマンからアサシンにジョブチェンジできるという事だろうか──と、女子高生は他にも色々と応用できそうだなと思いつつもここで思考回路を一旦ストップさせた。
考えるのは明日にでもしよう。今はそう、とりあえず一人で静かにぼうっとしたい……そんな気分であった。
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