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“Vamps”日本第二支部は、威妻市の中心にそびえ立つ巨大複合商業施設の地下のそのまた地下に存在している。
二人の吸血鬼は現在進行形で組織へ向かっているのだが、その移動方法は独特だ。何の変哲もないトラックの荷台に乗る、というものである。
勿論、トラックは“Vamps”が手配したものだし、その運転手も組織に身を置く吸血鬼だ。
吸血鬼の存在は表沙汰になってはいけない。ゆえにこうして人間の世界に溶け込むように工夫しているというわけだ。
それはそれとして、この移動方法には欠点が一つ。普通に乗り心地が悪いのである。
段ボールを椅子代わりにして座っている未散は、手のひらに顎を乗せて口を若干への字にしながら何も言わずに不機嫌そうにしていた。
「…………」
「もー、だからそんな嫌そうな顔しないでくださいってば。猫ちゃんを抱えたまま電車に乗るワケにはいかないって言ったでしょ? なので今回はこの子に免じて我慢してくださいニャ」
地べたに胡座をかき、招き猫のような仕草で女子高生をなだめるミサキ。そしてトラック移動せざるを得なくなった原因である黒猫はというと、栗色髪の吸血鬼が組んだ足の隙間に良い感じに収まっていた。
「……別にもうこの移動方法には今さら文句無いよ、慣れたし」
「じゃあ一体なにに不満がおありで?」
「何回乗っても乗り心地を改善しようって気持ちが1ミリも見えてこないところ」
そう言われて、ミサキは辺りに視線を配る。ただ段ボールがいくつか置いてあるだけの、薄暗くて殺風景な荷台。
「あー……まあ“Vamps”ってたまーにケチな部分ありますからネ〜。クッションやソファーの一つぐらい置いてくれてもいいのに──そんなふうに考えていた時期がワタシにもありました」
乾いた笑みを零しながらミサキは言う。
それを聞いて未散はなるほど、と半ば諦めに近い得心が行った。
(単なる移動手段、乗ってもせいぜい数十分。それに、バスやタクシーみたいにいっぱいある。そんな道具の内装にわざわざ割く予算は無いってことか)
一瞬、マイクッションでも持参しようかと思った女子高生であったが、毎回同じトラックに乗るとも限らないし、いちいち持ち運びするのは面倒なので、それならもう段ボールという名の椅子で我慢した方がいいか、と結論付けた。
(……まあ、毎日乗るワケでもないし)
次は絶対に電車で来よう、と女子高生は強く決意するのだった。
なにも組織へ赴くのに必ずしもトラックを利用しなければならないというわけではない。組織に来るまでの道中で誰にも悟られず、尾行されず、バレなければそれでいいのだから。
そうこうしているうちに、トラックの動きが停止した。エンジン音も静まり返る。目的地に到着した合図だ。
「おっと、着いたみたいですネ。そんじゃ降りましょうか未散」
「……ん」
「ハイ、猫ちゃんも行きますヨ〜。もうすぐ飼い主さんに会えますからネ〜」
黒猫を抱きかかえるミサキを横目で見ながら、未散は小さな溜息を吐く。こんな雑用ばかりクリアし続けて、本当に“同類殺し”案件の任務が舞い込む日が来るのだろうか、と。
そう思いながら女子高生は栗色髪の吸血鬼と共にトラックの荷台を後にするのであった。
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