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今回の依頼人──黒猫の飼い主は、未散と同い年ぐらいの少年だった。
癖っ毛ぎみの茶髪と爽やかな笑顔が特徴的で、猫を飼っていると知れば「あ、確かに猫好きそうな顔してる」と言われそうな雰囲気だ。
「いやー本当にありがとうございます! 数日前にちょっと目を離した隙に家から逃げ出したみたいで……ったく、心配したんだぞクロ?」
少年は黒猫を抱きかかえてそのまま頬擦りをし、再会の喜びを噛み締める。しかし猫の方は「ニャアアア!」と鳴き声を上げながら主人の腕から逃れようとしていた。
「……」
なんかあんまり懐いてなさそうだし、だから逃げられたんじゃ、と未散は少し離れたところから冷めた目つきで見ていた。
「アッハハ! なんかワタシに捕まった時より嫌がってません? なんにせよ、こうしてアナタと猫ちゃんが再会できたのは喜ばしいコトです」
黒猫の引き渡し役だったミサキは、うんうんと頷きながら、まるで自分の事のように喜んでいた。
「ではでは、これで今回の依頼は完了ですネ。またなにか困ったコトがあれば遠慮なく執行課の方までお越しくださいな」
「はい! ありがとうございました!」
ぺこり、と深いお辞儀をして少年は執行課の部署を後にする。猫は最後まで迷惑そうというか、嫌そうにジタバタとしていた。
「さてと。そんじゃ桐村さんに書類を提出して今日のところは帰りますかネ。未散も学校帰りなのにお疲れ様でした」
「……別に疲れてないけどね。今回の猫探しは殆どあんたが頑張ってたワケだし」
「ええ頑張りましたとも! もっと褒めてくれてもいいんですヨ? ん? ん?」
ミサキは得意げな顔で未散へにじり寄る。しまった言葉のチョイスを間違えた、と女子高生は何か別の言葉に訂正しようと思ったが時既に遅し。とりあえず擦り寄ってきた栗色髪の吸血鬼をグイッと押し退ける。
「ああもうウザい、近付くなバカ。猫臭い」
猫アレルギーである未散は、先ほどまで黒猫を抱きかかえていたミサキに対しても反応を示していた。軽く鼻がムズムズする程度だが、それでも近付かないに越した事はない。
まあ猫要素抜きにしてもなるべく近寄らないでいただきたい、というのが未散の本音なのだが。
「うっ、流れるような罵倒の三連星にワタシの心は挫けそうになりましたがそこはグッと堪えるとして。うーむ、アナタが気になるようならシャワーでも浴びてきましょうかネ」
すんすん、と自身の体や服の臭いを嗅いで確認するミサキ。
「……依頼は終わったんだし、そのまま帰ればいいじゃん」
なにシャワー浴びた後も私と共に行動するつもりでいるんだ、と女子高生は忌々しげに思う。
しかしミサキは未散の言葉を受け、首を傾げて不思議そうな顔をする。
「カエレバ……? ああ、ワタシのお家に帰れってコトですか?」
「それ以外に何があんの」
「アッハハ、ですよね! すいません、ワタシってば帰る家とか無いからピンと来なくて」
たはは……と、こめかみを指で掻きながら栗色髪の吸血鬼は気まずそうに笑う。
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