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家が無い。
その言葉に、未散は思わずリアクションに困ってしまう。
「……」
同時に、女子高生は記憶を辿る。
ミサキと出会ってはや数ヶ月。彼女が固有能力“開放”を使い、未散宅への不法侵入を繰り返しているのは今や日常茶飯事。
なら私の家にいない時、ミサキはどこで何をしているのか──? 未散は初めて、そんな疑問を抱いた。
ネットカフェを頻繁に利用しているのは知っている。ただそれだけ。それ以外のミサキのプライベートを、未散は知らない。そもそも知ろうともしてこなかった。
(……まあ、ミサキがどこで何をしてようが私の知ったこっちゃないし)
疑問を抱いても、それが自分には関係無いと判断すればそれ以上は気にしない。そして女子高生は決まって興味無さげにこう言うのである。
「……あっそう」
一瞬、リアクションに困りはしたものの、思考を巡らせればなんてことはない。未散にとってミサキの家の有無など、人間に戻る為の過程においてはなんら関係の無い事柄なのだから。
「Oh……数ヶ月の付き合いを経てもアナタのその他人への無関心っぷりはブレませんネ。普通ならここはちょぉっとぐらい気にする場面では〜?」
構ってほしいわけではないが、こうも無関心だとちょっぴり寂しいものがある。なのでミサキは意地悪で“普通”というワードを強調したのだが、あいにく彼女の前で未散は自分を偽らない。目立つのを避ける為に普通を演じない。肩の力を抜き、ありのままでいる。
つまりは無意味という事である。
「何、気にして欲しいワケ?」
ジトリ、と未散は鬱陶しそうにミサキを睨みながら心底面倒臭そうな声色で言った。
「別にぃ〜? ま、ワタシの過去話なんて、序章でするようなモンでもないですしおすし」
口を尖らせ、ぷいっとそっぽをむく栗色髪の吸血鬼。あんたがそんな動作をしてもただただウザいだけだよ、と女子高生は冷たい目線だけで静かに訴えかける。
「さてさて、お話が逸れちゃいましたがひとまず桐村さんのトコに行きましょうか」
「……ん」
気乗りしない様子で未散は短く返事する。
────桐村咎愛。
執行課の中でも高い地位に就いており、有する戦闘能力も組織内で五本の指に入るほど。
ミサキの上司であると同時に、今は未散の上司でもある人物だが、正直なところ未散は咎愛の事が苦手だ──否、むしろ嫌いと断言できよう。
組織に属する前にいざこざがあったというのもあるが、腹黒い言い回しが特徴の京訛りと、全てを見透かしているかのような薄ら笑いが張り付いた狐顔がどうにも好きになれない。
そして何より、待てども待てども“同類殺し”案件を回してこずに雑用めいた任務ばかりを押し付けてくるのが気に食わない女子高生なのであった。
許可さえ出れば真っ先に始末したいとさえ時々思う未散だが、実力差を充分理解しているのでそれはしない。
なにせ相手は百二十八刀流。
二丁拳銃などでは太刀打ちできない事ぐらい、普通に考えれば分かる事だ。
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