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「アレン!」
扉を開け放つと同時に視界に映るアレンの背中。夢にまで見た彼の姿が、確かにそこにあった。
「……エラ?」
窓際に立つアレンが振り向き、呆然と呟く。どうして君がここにいるの、と。
「……私」
あなたに会いに来たの。会いたくて会いたくて、忘れられなくて、どうしても諦めきれなくて。
でも、そのどれも言葉にならなかった。言いたいことは沢山あるのに、何一つ口に出来なかった。
すぐそこにいるアレンの姿に、手の届く場所にいる彼の姿に、気持ちだけが急いていた。
「――君」
泣いてるの?と、彼が呟く。金色の瞳が揺れ動いた。
「アレン……」
どうして来てくれなかったの、私、ずっと待ってたのよ。橋の上で、あなたをずっと待ってたの。毎日、毎日……。
「……嘘つき、アレンの……嘘つき」
違う。こんなことを言いに来たんじゃない。こんなことを言いたかったわけじゃない。
「嫌い……アレンなんて、嫌い」
違う、嫌いなんて嘘。嫌いなわけない、アレンのことを嫌いだなんて一度だって思ったことない。
でも駄目。もう止まらない、止められない。顔を上げられない。
「なんで来ないのよ。……待ってたのに。ずっとずっと、あなたを待ってたのに……!」
気持ちが溢れて、涙が止まらなくて、もう……自分でも何を言っているのかわからない。
「また明日って……言ったじゃない。また明日って……アレンが……アレンが!」
「――エラ」
刹那、ふわりと……どこか懐かしい匂いが香った。そして気付けば、彼の腕に抱きすくめられていた。
「……え」
今――何が起きているの?
私……今、アレンに……?
「ごめん、ごめんね」
アレンの声が耳元で囁いた。首筋にかかる彼の吐息に、私の心臓が跳ねる。
「言い訳はしない、全部僕が悪いんだ。ごめんねエラ。お願いだからもう泣かないで」
「……っ」
あぁ、アレン、アレン。私……あなたが好き。たまらなく好きなの。恋をしてはいけない相手だとわかっていても、もう止められないの。
「アレン、私……」
言わなきゃ。今しかない、伝えるなら今しかない。
「あなたが……好き」
「――え?」
瞬間、アレンの腕がびくりと震えた。
心臓が痛い。拒絶されるのが怖い。でも言うんだ、最後まで。
「私、あなたが好き。それをどうしても伝えたくて、ここに来たの」
「……エラ」
私は驚きを隠せない様子の彼の腕をそっとどけ、自分の首に巻いていたマフラーをとる。それはこの日の為に編んだマフラー。アレンに渡すために想いを込めた、赤いマフラー。
私はそれを、アレンの首にそっと回した。
「これ……あなたに。アレンが私のことを好きじゃなくてもいいの。ただ伝えたかったの。私はアレンが好きだって。私はあなたの味方だって」
「……エラ」
「だから……貰ってくれる?」
そう言って、精一杯微笑んでみせる。
するとアレンも、微笑み返してくれた。
「勿論だよ、エラ。ありがとう、凄く嬉しい。このマフラー、大切にするよ」
それはまるで初めて会ったときの様な眩しい笑顔で、ずっと見たかった彼の笑顔で……私は切なくて、でも、心が満たされた様な気がした。
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