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二月末の早朝、町の人々と別れの挨拶を終えた私たちは、馬車に乗り込みスノーギルを立った。
次の町へ向けて日の光を照り返す雪道を進んでいく。
けれどアレンは今朝も姿を見せず、結局あの夜が、彼と言葉を交わした最後になってしまった。
これで本当にさよならなのね。
そう思うと、寂しさと切なさが込み上げてきて、私は名残惜しさに馬車から顔を覗かせ、遠ざかる町を振り返った。
すると、彼と過ごした丘の上に誰かが立っていることに気付く。
「あれって……」
白い雪を背景にして、くっきりと浮かぶ赤い色。
それは紛れもなく、私があげたマフラーを首に巻いた、アレンだった。
彼は私たちを見送るように、じっとこちらを見つめていた。
「……アレン」
あぁ、アレンはちゃんと見送りに来てくれた。あの赤いマフラーを巻いて。
私はそれだけで、もう十分だ。
「ありがとう、アレン」
私の恋は叶わなかった。
それはやっぱり切なくて辛い。
でも後悔は何一つない。だって、やれることは全てやりきったから。
私はこの町でのことを、彼と過ごした思い出を、あの笑顔を、きっと一生忘れない。
あの赤いマフラーに込めた、彼への想いも――。
Fin.
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