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どうしよう。とても……出て行きづらいわ。
男の子の姿があまりに痛々しくて。
それに先程の領主の息子の言葉が耳に張り付いて離れない。アレンを妾の子と呼んだ、蔑むようなあの声が。
「ごめん」
「――っ」
刹那――呟かれたその声に、私は声を上げそうになった。アレンに気付かれたのかと思ったのだ。
でも違う。今のは、あの男の子にかけられた言葉。
「ごめんね、ユアン。そのマフラー……」
「……これ……かあさんが、あんでくれたんだ」
「そうか。……本当にごめん、止めてやれなくて」
「……アレンさんのせいじゃ……ないよ」
そんな風に必死に強がっても、男の子の涙は止まらない。
するとアレンは自分の首に巻いていたマフラーを取り、それをそっと男の子の首にかけた。
その子の瞳が、驚いたように見開かれる。
「アレン……さん?」
「僕のマフラー、そのマフラーの代わりにはならないけど、君に持ってて欲しいんだ。貰ってくれるかな?」
「……あ」
瞬間――男の子の涙が止まった。
「本当に……いいの?」
「あぁ」
「……ありがとう」
「僕の方こそ。でも……もしまたサーシスに何かされそうになったら、すぐに僕のところへ逃げておいで。次は絶対にこんなことさせない。それに僕は君の味方だから。ね?」
「うん!」
アレンの優しい笑顔に、男の子の顔も明るくなる。最後には笑顔を浮かべ、手を降りながら走り去っていった。
良かった。アレン、あなた凄いわ。
そう、ほっと胸を撫で下ろす。けれど同時に彼がこちらを振り向いて、そのまま視線がぶつかった。
「……僕、待っててって言ったよね?」
「――っ」
そう呟いた彼の瞳はどこか陰っていて、私は眼を反らさずにはいられなかった。
「……ごめんなさい」
俯いたままの私へ近づいてくる彼の足音。それは、すぐ目の前で止まる。
「いや……ごめん。別に怒ってるわけじゃないんだ。ちょっと……変なところ見られたなぁって、動揺しただけだから」
その言葉に顔を上げれば、彼はどこか困った様に微笑んでいて。
「ちょっと、歩こうか」
そう言うと、私の返事も待たずに歩きだした。
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