愛しのアレン(ShortVersion)

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* 「ユアンはさ、去年母親を亡くして、今一人きりなんだ」 「え?」  歩き初めて少ししたころ、アレンが呟いた。  私は驚いた。だって男の子の話ではなく、アレン自身の話を聞かされるのだと思っていたから。 「ユアンは赤ん坊の頃に父親を病気で亡くして、母親と二人で頑張ってたんだ。けど今度はその母親が病気になっちゃって。ユアンはまだ5歳なのに必死に働いてた。でも、結局……」  アレンの拳が、強く握りしめられる。 「僕は何もできなかった。ただ見ていることしか出来なかった。僕は領主の息子なのに、何不自由なく暮らしているのに……」  私の前を歩く彼の肩が小刻みに震えていた。背中がいつもより、小さく見える。 「今だってそうだ。僕はどうしたってサーシスを止められない。僕はあいつの兄なのに、どうしても強く出られない」  ――僕が、妾の子供だから。  そんな言葉にならない心の悲鳴が、聞こえた様な気がした。  あぁ、彼は今、一体どんな顔をしているのだろう。悲しい顔?悔しい顔?あるいは、その両方だろうか。  アレンの足が止まる。ゆっくりとこちらを振り向いた。 「……アレン?」  彼のまぶたが、鼻が、頬が赤い。笑顔はいつものように柔らかなのに、それなのにどうして私はこんなにも、泣きたい気持ちになるのだろう。 「……はは、やっぱり寒いや。今日はもう帰ろうか」  冷たい空気に晒される首を庇うようにコートの襟を立たせ、彼は再び背中を向ける。 「……また明日。エラ」 「……ええ。……また、明日」  結局、私はアレンに何の言葉もかけられないまま、家路に着いた。
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