愛しのアレン(ShortVersion)

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*  けれど、アレンの言った“また明日”は来なかった。次の日、いつもの待ち合わせの橋に彼は来なかったのだ。1時間過ぎても、2時間が過ぎても、次の日もまたその次の日も、彼は姿を現さなかった。  理由が知りたくて町の人に尋ねても、皆知らないと言うばかり。そんなある日、とうとう父様に叱られた。“自分の務めを全う出来ないようなら、舞台には立たせない”と。  私は愕然とした。言われて初めて気が付いたのだ。舞に集中出来ていないことに。アレンのことで頭がいっぱいで、笑顔すらも忘れていたことに。  父様は言った。“彼のことは忘れろ”と。そして続けた。“お前には既に相手を決めてある。これ以上の深入りは許さない”――と。  それはまるで私がアレンを異性として意識しているような言い方で、私はますます驚いた。  だって世界を旅する私たちは、一族同士で婚姻を結ぶと昔から決められているからだ。それを知りながら外の人に心を寄せるなんて、あり得ないと。  なのにどうしてだろう。父様に、“アレンはただの友人です”と告げたとき、胸が酷く痛んだのは。
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