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「町が見えたぞ!」
団の先頭から声が上がる。
それは私が16歳を迎えようという頃のこと。50名ほどの私達の団は、今年最後を過ごす町を目指していた。そこは年中通して冬の街、スノーギル。別名、雪の峡谷。一年中雪の降る、白くて美しい谷だ。
「よくお越し下さいました、貴方がたのことはお噂でかねがね」
町に着くと同時に沢山の人に出迎えられる。馬車から外の様子を伺えば、団長が町の偉い人と握手を交わしているのが見えた。
それにしても、本当にどこもかしこも真っ白だ。見渡す限り辺り一面の雪景色。太陽の光に反射して眩しいくらいに輝いている。
「すごいわね! 本当に真っ白だわ! 私、こんなに沢山の雪を見るのは初めてよ!」
私の言葉に、母様がクスリと笑った。
「ええ、そうね。本当に素敵な町だわ」
「ここにはどれくらいいられるの?」
「3ヵ月くらいかしら。これからもっと雪が積もるから、それが溶け出すまではね」
「それだけあれば十分だわ! 私、この町のこと沢山勉強するわね!」
「頼んだわよ、エラ」
私たちは世界を旅する一族だ。世界を愛し国を知り、歴史を学び、それを次の世代へと伝承していく。それが私達の使命。
次の日の夜、私達はさっそく最初の舞を披露した。
月明かりに照らされ青く光る雪のステージで、神話や逸話を歌にのせ舞い踊るのだ。男たちの楽器に合わせ踊るのは、私を含む年ごろの娘たち。長く伸ばした黒髪を宙になびかせ、スカートの裾を翻しながら、跳んで回って、祈るように歌う。
あぁ、本当に気持ちがいいわ!
私はこうやって踊っている時間が一番好きだ。胸が高鳴り全身が燃えるように熱くなって、言葉に出来ない程の高揚感に満たされる。
けれど。
その時間も残りわずか。舞えるのは成人前までと決められているから。私の16歳の誕生日まで、あと2ヵ月半。
だから。
それまでは精一杯踊ろう。心を込めて歌おう。人々の幸せを、世界の安寧を、誰一人悲しむことのない温かな世界を祈って――。
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