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「これで寒くないだろ」
「私は寒くないですから先輩が巻いてください」
こういうさりげない優しさに女性は落ちてしまうのかもしれないけど、私には効かない。
マフラーを突き返そうとすると「鼻先をそんな真っ赤にしてよく言うよな」と先輩は笑う。
後輩に風邪なんて引かれたら俺の責任だからなと言われてしまい、私はマフラーをこのまま借りることにする。
先輩から借りたマフラーは温かく、幸せな気持ちになる。
「お! 自販機発見。なんか温かいもんでも買ってきてやるから待ってろよ」
そう言って戻ってきた先輩に手渡されたのはホット珈琲。
二人で近くのベンチに座り飲む珈琲は、体の中から温めてくれる。
先輩の行動一つ一つが思いやりと優しさに溢れていて、モテるのもわかる。
でも、それが私に効かないのは、すでに私も先輩に恋をしてしまっているから。
空を仰ぐと無数の星々が輝いている。
寒いはずなのに、先輩と一緒にいると温かい。
それは珈琲のせいなのかマフラーのせいなのか、それとも別の何かなのか。
「よし、帰るか」
「そうですね」
先輩のマフラーをキュッと握り、私は口元を緩める。
こんなに温かい冬は初めてだ。
—完—
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