'夢’

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'夢’

2019年。 和人と理央夫婦と食事をしている最中、ある一本の電話がかかってきた。 着信音を発した友樹の電話をすぐにとり外へでる。 「酒井ちゃん。どうした?」 「お疲れ様です。お楽しみのところ電話してすいません。先ほどの件ですが    スケジュール大丈夫ですのですぐにご報告と思いまして」 「ありがとう。酒井ちゃん。わざわざかけてくれて。  久しぶりの地方だから食事とか食べにいきたかったんじゃない?」 「お気遣いありがとうございます。それはまた別の日でも大丈夫です。  石田さんも久しぶりのお友達との食事会でしょ?楽しまれてください。」 「ああ、なら後日ちゃんとここらへん案内するから。」 「はい。ありがとう。ございます。」 酒井は電話を切った。 そして、電話を終え顔を上げると周辺の町の明かりがイルミネーションのよう に光っている。 (本当8年ぶりだもんな。あれからこっちに一度も返ってこれなかったから  な。美樹どうしてるんだろう。) 夜景をみながら考えている友樹がある建物を発見する。 (コミュニティFM局 FM MATIDA) 石田がそのネオンを見て昔の思い出がよみがえってくる。 (すべてはここから始まったんだ。俺も美樹も。) 卒業式にしみじみとお世話になった校舎を眺めるようにその建物を見る友樹。 友樹は感謝の意を込めて建物に向かって一礼した。 2011年4月 夜。ある家の二階。ベットに置いてあるポータブルラジオから放送が聞こえる 「ただいま聞いていただいた曲は、今週デビューしたての4人グループ。  ラシールの「愛情」でした。  この曲いいよね。ラシールのメインボーカルのYUKIは今月の13日  から始まる。新ドラマ「リブート」でヒロイン役楓を演じる事でも  今話題になってるよね。YUKIはラシール結成前から女優業していたから  今後も演技に歌に大注目です。  そして、デビューイベントがなんとこの町田で行われるらしいぞ。  日時場所は、ラシールのホームページからチェックしてくれ。  お知らせの後は、おまたせしました。「町民の主張」をお送りします。」  ポータブルラジオの電源を切って寝る支度をしようとしているところへ  ノック音が聞こえた。 「はーい。」 「私よ。美樹ちょっといい?」 「うん。大丈夫。」 すると、美樹の母親が入ってきた。 「どうしたの?」 「ううん。最近、仕事で忙しくてなかなか話せてなかったから。  ごめんね。寂しい思いをさせて」 「大丈夫だよ。ママ。仕事なんだから私のことは心配しないで。  楽しくやってるよ。」 「そっか。よかった。悪いねー。何かあったらいつでも言ってね。」 「うん。わかってるって。あ、それよりこの前の夕食食べてくれた?」 「うん!!食べたよ。美樹の肉じゃが。すごくおいしかった。」 「やった!!ママに感想聞くの楽しみにしてたんだ。」 美樹の母は美樹の横に座り額同士を重ねた。 「本当に美樹とお兄ちゃんは。自慢の子供だよ。  今は仕事大変だけど。この案件終わったらまともに休みとれると思うから」 「うん。でも無理しないで。約束ね。」 「うん。わかった、、、じゃあ、寝るね。お休み」 「うん。」 母親を手を振り送る美樹。 そして、美樹の座っている後ろにはある紙があった。 (第二回 ReING新人発掘オーディション)と書かれていた。 「今日も言い出せなかったな、、、」 その紙を机にしまい、美樹は眠りについた。 あの老人施設の職場体験に行った僕達D班は、あれから4人で事あることに 集まることになった。 でも、会える回数は増えたが僕にはピアノのレッスンがあったので 和人、生島、美樹の3人で遊ぶことのほうが多かった。 でも、たまに放課後練習していると美樹がいつも通り音楽室へ来て 他愛もない話をしながらたまに美樹の歌に合わせて演奏することがあった。 「ねえ、昨日のラジオ聞いた?ラシール出てたよ。」 「聞いた。いい曲だったな。」 音楽室で歌とピアノをセッションする傍ら、あまりに最近の音楽に疎い自分 に対して美樹は色々と教えてくれていた。そして、二人で最近注目しているの が「ラシール」だった。 「YUKIちゃん、今度ドラマも出るし今後も楽しい日が増えそう。」 美樹はとても嬉しそうだ。 最近、僕は美樹と話をしていて美樹の喜ぶ表情を見るのがとても好きだった。 この感情が「恋」なのか違うのか自分でもわからなかった。 でも確実に言えることは美樹とのこの空間が自分の「癒し」であるということ だ。 「この前の映画のことも色々教えてくれてたもんな。」 「うん、YUKIちゃんは私の憧れなの。同い年なのに演技もできて歌もできて  完璧な子。本当に尊敬しちゃうよ。」 「そんな、美樹も負けてないと思うけど、、、」 それを聞いた美樹はキッとした表情になり僕に詰め寄ってくる。 「石田君!わかってないなー!YUKIちゃんはこんなもんじゃないの!!  今から見てて!絶対、そのうちレコ大とか取り出すから!そんな人と  私を一緒にしてはダメだよ」 「怒られてる、、、、褒めたんだけど。」 「YUKIちゃんの事わかってないからだよ。ん?もうこんな時間。  あ、そうだ。そんな君に良いものをあげよう。はい。」 美樹はあるチケットを僕にくれた。 よく見ると「ラシール」デビューイベント観覧当選券だった。 「これどうしたの?」 「当たったの。私ファンクラブ入ってるし。しかも,はい。私のも。  一緒に行こ?ついでに横でYUKIちゃんの良さをレクチャーしてあげよう」 「そ、それはありがとう、、、」 こうして、今週の「ラシール」のデビューイベントに二人で行くことになった こんな感じで僕と美樹は一緒に出掛けることになったのだ。 そして、その日まで僕たちはいつもの日常を過ごした。 僕はというと、最近とてもいい事があった。 スランプに陥っていたピアノも少しづつ克服の兆しを見せていた。 リチャードもとても喜んでくれた。リチャード曰く、スランプの原因は 精神的な問題だった。 技術は問題なく上がっているのに、演奏に気持ちが入っていなかったらしい。 上の演奏家を目指すなら、目の前の聞いてくれる人にどうすれば演奏を通して 表現を伝える事が出来るのかを考えろと言われた。 今を思い返せば、そうだった。 練習して技術向上に目を向けがちになっていて気持ちの入り方が足りていな かったと、今ならそう思える。 そして、そのスランプの克服のきっかけをくれたのは間違いなく、美樹だった 彼女と放課後、音楽を通して語りそして、偏りがちになっていた普段聞く音楽 だけでなく新しい音楽を聞かせてくれたことが。 僕に変化を与えてくれたのだ。 僕はさらに美樹に感謝した。 そして、その美樹から「ラシール」のイベントの日に彼女の’決意’を聞くこと になる。 そのイベントの日、 僕は待ち合わせの会場の近くの駅で美樹を待つ。 これはデートになるのだろうか?最近、自然といつも一緒にいるが、それらし い出来事もない。でも、今日美樹と二人で学校以外で会うと思うと自然と 緊張していた。 「おまたせ」 その声のする方へ向くと白いフリフリのシャツにブルーのミニスカートを着た 美樹が立っていた。 学校でのイメージとはまるで違うので僕は一瞬、動きが止まってしまった。 「石田君?」 「ん?ああ、おはよう、、結構、早く着いたんだね。」 「そんな、石田君こそ。わたしより早く来てたじゃない。」 「ああ、でも僕も来たばかりだったから。」 「そう、なら行こうか.始まるのはまだ早いけどちょっと付き合って?」 「うん。わかった」 僕と美樹は駅の近くのカフェで飲み物を買い近くの海沿いの広場を歩いた。 「今日、天気でよかった。雨ふったらどうしようかと思ったよ。」 「そうだね。」 「そういえば、石田君。コンクールの一次選考。もうすぐなんでしょ?」 「ああ、来月かな。それに向けて先生と猛特訓中だよ。」 「すごいね。でも、石田君なら大丈夫だよ、、、」 なぜか、その横顔は少し寂しそうだった。 「何かあった?」 「え?」 「いや、なんか表情が浮かばないから。何かあったのかなと思って」 「、、、」 それから美樹はしばらく黙ると決心した表情でしゃべりだした。 「あのね。ここ。私が初めてYUKIちゃんを見た場所なの。」 「そうなんだ。」 「というか。私が歌を始めようと思った場所。まだ「ラシール」にも  アイドルもやっていない頃のYUKIちゃんを初めてここで見たの。  私より少し年上の女の子がこんな素晴らしい歌を歌うんだって衝撃を  受けたんだ。  私その頃、実をいうとイジメられてたんだよね。  毎日、ママに迷惑をかけたくなくて。我慢して学校に行ってた。  でも、学校に行けばいやがらせとか時々、暴力受けててさ。  あの時は、ママにもお兄ちゃんにも迷惑かけてたな。  そんな時、もう限界で気づいたらここに来てた。  そしたら、女の子がYUKIちゃんがそこで歌ってたの。  それを聞いて今まで我慢してたものが一気に決壊したダムみたいに    崩壊して号泣しながら歌を聴いてた。  その出来事から、私はYUKIちゃんの大ファンに。  ずっと追っかけやって。過去のことも握手会とかで話して  彼女はいちファンなのに短い間だけど聞いてくれた。  それが唯一の心の支えだったんだ。」 それを聞いていた俺の目からなぜか涙が出てきた。 美樹は俺を見てそれに気づいた。 「石田君?泣いてるの?」 「いや、つらかったんだなって思って。  この前学校でも話してたけどそんな過去があったなんて思ってもみなかった  から、美樹にとって恩人なんだな。」 「そうだよ。それに今日は特別な日。そのYUKIちゃんのメジャーデビューの    日に、一番の友達の君を紹介できるんだからね。」  それを聞いて、なんか妙に緊張してきた。 「それと、私。今日は二人に大切な話があるの。」 「大切な話?」 「うん。YUKIちゃんにも言おうと思って。私、、、、」 「歌手を目指す!」 そう宣言した美樹は決意と自信に満ち溢れていた。 「っていうか、これ応募しようと思って。」 「ReING新人発掘オーデション?」 「そう。ずっと悩んでたの。ママにも言えずでも、石田君と出会って  夢を追いかける君を見て決心がついた。  私も石田君やYUKIちゃん見たいに’夢’を追いたい。  私を救ってくれた歌で今度は私が誰かの心を救えるような歌手になりたい」 僕は美樹のその姿を見て即答した。 「大丈夫だよ。美樹はきっと歌手になれるよ。  俺、初めて美樹と音楽室でセッションした時から思ってた。  君の声と一緒に演奏して俺もワクワクしたんだ。  俺のスランプを脱出できたのは他でもない美樹のおかげなんだ。  自信をもって受けておいでよ。」 美樹はそれを聞いて、僕の左肩に寄ってきた。額を肩に乗せ一言 僕に言った。 「ありがとう、、、」 ぼくは突然すぎてしばらく立ち尽くし 「うん」と返事した。 そして、美樹は普通に戻り 「行こうか。もう、そろそろイベントの時間だよ。」 いつもの笑顔で美樹は言った。 そのあとは、無事二人で「ラシール」のデビューイベントを見て、一緒に 握手会に参加した。 美樹はYUKIちゃんにまるで実家の母のように僕を紹介し、その横で緊張で 僕が固まっていたのはいうまでもない。 こうして、イベントは無事終了した。 僕と美樹は駅へ歩いた。 「今日はありがとう。とても楽しかった、、」 「俺もだよ。ありがとう」 「、、、あのさ。今度また二人で会ってくれる?」 「もちろん。」 「よかった、、、今日重たい話したから嫌われたんじゃないかって」 「そんなことあるわけないだろ。大丈夫。」 「うん。ありがとう。じゃあ。」 「ああ、じゃあ」 こうして美樹と僕は帰路についた その日の夜、美樹の家にて、夜遅くまで何かを書いている彼女の姿があった。 それから2週間、いつもの日常が流れる。 そして、ある日彼女から呼び出され学校の屋上に呼ばれた。 言われた時間にそこに行ったがまだ彼女の姿はなく、僕は落ち着かずソワソワ してそこで待っていた。 「おまたせ、ごめんね。待たせて」 「いや、大丈夫だよ。俺も今来たところだから」 「あのね、話っていうのが、、、」 美樹は意を決して言う雰囲気を醸し出しながら言う。 「あの、、、今度の火曜から「FM MATIDA の(こんにちわ、MATINKO(  町ん子))の専属女子高生パーソナリティーに選ばれたの!」 彼女は満天の笑顔でその選ばれた際に送られてきた書類を見せてきた。 「はあ!?」 僕はてっきり違うことだと思っていたのでおもわず言ってしまった。 そして、一瞬で我に返りその書類を見る。 「すごいじゃないか。美樹。でも、なんでラジオ?」 彼女は(よくぞ、聞いてくれました)と言わんばかりに言う。 「それはだね、、私には大いなる計画があるのだよ。石田君!」 「計画?」 「うん。この前歌手になりたいって言ったでしょ。でも、やっぱりこの世界  でやっていこうとしたら色々、経験があった方がいいと思ってね。  っていうか、純粋にラジオ関係とかも興味あったんだよね。  でも、すべては私の夢の布石にすぎないから。」 「そっか!すごいな。美樹の夢も動き出したんだな。」 「うーん、まだまだ始まったばかりだけどね。石田君に比べたらまだまだ  だよ。」 「そんなことない。小さくても大いなる一歩だよ。きっと大丈夫」 「ありがとう、今度の火曜聞いてよね。」 「ってか、初回放送。見に行くよ。」 「いや、、、いいよ。はずかしいし。」 「そっか」 「うん、、、でも、慣れたら見に来て。石田君がそばにいたら頑張れると  思うから」 「わかったよ。その時は教えてね。」 「うん。大発表したらおなかすいちゃった。なんか食べて帰らない?」 「そうだな。美樹何がいい?」 「ええとね。駅前のフードコート行きたいな。」 「わかった。なら今日は俺おごるよ。お祝いで」 「やったー!行こ!」 僕たちは駅前まで話しながら歩いた。
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