トラウマ

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トラウマ

美樹が自宅へ戻って数日後。 美樹は学校へ登校してきたんだ。 「お!美樹!」 笑顔で手を上げ返事する。 退院を待っていた理央、和人はすぐに美樹のもとへ駆けつける。 声が出ないなど関係ないと言わんばかりにいつもと一緒に四人で会話を 楽しむ。 俺は隆二さんの話を思い出していた。 「トラウマですか?」 「ああ、母さんが死んだ姿を鮮明に見ていて、その光景がたまに蘇って  パニック障害を起こすことがあるらしい」 「パニック障害?」 「ああ、息苦しくなったり、叫びだしたりとか症状は人それぞれらしい  けど、時間がかかるそうだ」 「そんな、、、、」 「だから、学校にいるときは目をかけてやってほしい。さすがに学校まで  おれがいるわけにはいかないし、友樹しかお願いできないんだ」 「わかりました。」 「ありがとうな。いつもいつも。また、飯でも食べにおいで。そんな、事しか  できないが、、、」 「そんな。俺にまで気をまわしてくれてありがとうございます。」 「いいってこと。」 「隆二さんのご飯マジでうまいっす」 「おお!うれしいこと言ってくれんじゃねえか。弟!!」 隆二さんは美樹の事もありすごく仲良くしてくれた 学校が終わって美樹を家へ送り届け、たまに美樹の家で話す。 その日は隆二さんが夕飯までごちそうしてくれる。 レッスン以外はそうやってすごしていた。 ある日、美樹の家で夕方まで話している時ふと美樹に目をやるとものすごく 穏やかな顔をしていた。 部屋にいはとても、透明感がありきよらかな癒される曲が流れていた。 美樹は曲が終わると俺に気がつき(どうかした?)とホワイトボードで 聞いていた。 「ものすごく、気持ちよさそうに聞いていたから」というと 美樹は(これ思い出の曲なんだ。死んだ父さんのね。初めて聞きに行った コンサートで衝撃を受けたの)と書いた。 「へえ、何て曲?」 美樹は嬉しそうに書く (’優しい音色’) 「’優しい音色’」 (一緒に聞きに行ってたママももうお父さんのとこへ行ってしまったけれど  これを聞いた時だけはあの時に戻れるんだ。目をつむれば、、、、) そう、語る美樹の目頭には一粒の涙が流れていた。 美樹のお父さんもピアニストだったらしく、そのあとの会話で俺が放課後、 練習してる時に美樹が音楽室に来ていたのはお父さんを思い出していたとの 事だった。美樹のお父さんがピアニストでなければ俺と美樹がこうやって 会うことも、語ることも、思いあうこともなかったと思うと本当に 美樹のお父さんに感謝しかない。 そのまま、美樹と横に寄り添い話していると突然、美樹が僕の方に顔 寄せてきた。静かに寝息をたてている。よほど疲れていたんだろう。 俺は隆二さんの声がするまでそのまま美樹と少し休んだ。 二日後、僕と美樹は休みの日に公園へ出かけた。 都会では色々刺激が多いため、少しづつ近くの場所で外へ出る練習を始めた 公園で遊んでいる子供を見て美樹は微笑んでいる。 ここ最近は、僕はいつも美樹のそばにいて前以上に親密にもなっているはず なのに美樹の笑顔を見ているとなぜかその笑顔に俺はとどかないと思って しまっていた。物理的にはすぐそこにいるのに心はなぜか美樹が遠くへ行って しまうのではないかと思ってしまう。 あの時、駅の前の時よりなぜか距離は遠く感じた。 すると、ある子どもが蹴ったサッカーボールが道路の方へ。 もう一人の子供が道路へ取り行くと突然クラクッションが鳴る 僕はすかさず「危ない!」と叫び咄嗟に目の前の子供を抱え、 急いで反対まで子供を連れていく。 抱えている子供は酷く震えている。 「もう、大丈夫だよ。平気?」 「おにいちゃん、怖かったよー!」 突然の事に子供は泣き出した。 止まったトラックから「あぶねーだろうが!気をつけろ!」と聞こえた。 僕は深々と頭を下げ、子供を母親に預ける。 美樹の方に目をやると、その場に崩れ落ち震えている美樹がいた 「美樹!!!」 すぐに美樹の元へ行く。 全身冷や汗をかいて、うまく呼吸ができていない。過呼吸の状態になっていた 「はあ、はあ、はあ、、、」 目の前にいるのにとても苦しそうにして倒れている美樹を助ける事が出来ない とにかく救急車をと、、電話をかけようとする。手が震える。 「大丈夫?美樹、、、」 美樹は俺に心配を掛けまいとうなずいてはいるが一向に収まる気配がない。 すると、ある一人の20代くらいの男性が駆け付けた。 「君たち、どうした?」 「あ、あの突然、苦しみだして、、、」 それを聞くと少し考えだし、その男性は突然、手に持っていたビニル袋を 美樹の口元へあてた。 「大丈夫だからね。ゆーっくり息を吐いてごらん。」 指示に従い、次第に美樹はゆっくりした呼吸へ戻る。あんなに苦しそうに していたのにあっという間に普通へ戻っている。 「よーし、そうだ。うまいぞ。」 そして、呼吸も普通へもどり美樹はぐったりはしているが落ち着いていた。 「よし大丈夫だ。君、大丈夫?この子はもう心配いらないよ」 僕は安堵のため息を吐いてその場へ座り込んだ。 「突然、過呼吸見たらそうなるよな。後は、一応救急車読んであげるから  ゆっくりしてな」 「ありがとうございます」 俺は救急車が来るまですこし休んだ。 心臓が止まりそうだった。突然、美樹が苦しみだしてでも何もできなくて ただ苦しむ美樹を見る事しかできなかった。何もできなかったのだ、、、 美樹とそのまま救急車にのり病院へ隆二さんと交代し、俺は帰路につく いつも、なんとなく苦痛なく帰っていたこの道も今日はとても遠く感じた 疲れた、、、、今日はとにかくどっと疲れたんだ、、、、 翌日、いつもと変わらない表情で美樹の元へ行くと美樹は暗い表情をしていた 「どうしたの?」と聞くと美樹は手紙を俺に渡した。 (昨日はごめんね。    しんぱいかけて、っていうか、ずっと心配かけすぎだよね。  いつもそばにいるのに迷惑しかかけてなくて  ごめんなさい  あなたの重荷になりたくない、、だから、もうここへ来ないで)  自分は今読んでいる文章を疑った。  でもまぎれもなくそう書いている。  何か言い返そうにもなぜか言葉がでない、、、  なぜ、なぜなんだ。俺は美樹と一緒にいたい、、、    でも、ココロと体は反比例するかのように気が付いていた時には  なぜかその場を走って去っていた。  しばらくして、隆二さんが部屋へ入ってきた  「美樹、、、よかったのか?これで、、、」  (うん。昨日話した通り、、、これでいい。     これ以上、友樹の重荷になりたくない、、、) 「、、、、そうか、、、」 美樹はベットの上で静かに泣き、隆二さんはそれを何もいわず見ていた。 後日、隆二さんと会い。この事の顛末を話し。隆二さんからも謝罪された 「いえ、隆二さんが悪いわじゃないです。無力な俺がいけないんです」 「何言ってんだよ。弟。お前にはどんだけ助けられたと思ってんだ。」 隆二さんは俺に紙きれを渡した。開くと電話番号が書いていた。 「まあ、なんかあったら電話してきな。俺は美樹の件でじゃないく、  お前の人格に惚れちまってよ。何かあったら駆けつけてやっから」 普通に隆二さんの優しさがうれしかった。 「ありがとう。ございます。」 「もうそろそろだろ。コンクール本選。」 「ええ、来週です」 「俺も美樹も応援行くからさ。頑張れよ。」 「はい。」 (、、、、?) 僕の脳裏になぜがコンクールという言葉がよぎる。 コンクール。誰かと最近その話をしたような、、、内容は、、、、、!! 美樹のお父さん、、、思い出の曲、、、、癒し、、、それだ! 「隆二さん。お願いがあります。」 「おお、おう。」 俺は人生で初めて、自分の為にではなく、人の為だけにある一曲をコンクール で演奏しようとしていた。
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