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本選―優しい音色ー
2019年、
友樹と和人は隆二の店で昔話に花を咲かせていた
「本当、友樹には世話になったな。」
「いえ、自分は何も、、、」
「その謙遜するとこも尊敬するよ。友樹みたいなやつとあいつには結婚して
もらいたかったんだけどな、、、」
「ははは、今の美樹はそれどころじゃないでしょうから」
「そうか?でも、来週からはもう一人の歌手としてゆっくり過ごすと言ってた
ぞ」
「へえ、美樹。アイドル引退してからも歌手続けるんですね。」
和人が言う
「ああ、今度は自分で作って自分の曲を出すそうだ」
「じゃあ、まだ。美樹の声が聴けるわけだ」
隆二と和人の会話を聞き、友樹は考えていた
(よかったな。美樹。遂に、自分の歌が歌えるんだな。本当によかった、、、)
二人は隆二の店を後にした
和人は理央から電話と少し席を外す。
隆二は友樹の背中に声をかける
「弟!お前はこのままでいいのか?」
「!!」
「俺はお袋が死んでからお前達をずっと見てる。
お前の事もな。あのコンサートの事も。お前達の別れ方も、、、
何も終わってない。夢をかなえるために二人別の道を選んだだけだろ。」
「隆二さん、、、」
「友樹。自分に正直になれ。
そして、二人そろってここへ来い。飯ぐらいおごってやる。」
「はい、、、、」
隆二さんは俺の事なんかお見通しだった。感謝をして頭を下げる。
(がんばれよ。弟。美樹も、、、
まったく、二人の間に挟まれてこんなおせっかい俺らしくねえな
でもどうするかは二人次第だ。)
隆二は煙草をふかした
その日の東京のホテル。
和人と色々話し、床につく。
友樹は今までの2011年の出来事を思い出していた。
(もう、決まってる。俺は美樹とは一緒になれない、、、、
あのころとはちがうんだ、、なにもかも、、、、)
友樹は静かに目を閉じた。
そして、その日の夜。
友樹と和人一家は美樹がそこにいる日本武道館についた。
2011年、
コンクール本選当日、控室にある怒鳴り声が聞こえた
「ありえない!予定の自由曲を変えるなど、前代未聞だ!!今まで見た事も
聞いたこともないぞ!」
「お願いします!!」
当日のコンクール会場の演奏者のミーティング後、友樹は審査員の一人である
藤堂の前で頭を下げていた
藤堂の𠮟責に周りの演奏者は二人を見る。その横にはリチャードもいた
「ミスター藤堂どうか。お願いできないか?とんでもないことを言っている
はわかっている。でも、コーチである私からも頼む、、」
「リチャード、、、君がレッスンしていながら、こんな常識はずれな事
をよく許してたな。君はもっと優秀な演奏者だったろ」
「プレイヤーならばなおさら、人の心を響かせることにすべてをかけれる
最良の策があるなら、私はそれをとる!」
「その演奏曲変更が、この課題曲より人の心を響かせれることができると?」
「ああ、それは私が保証する、、、だから、頼む。ミスター藤堂!」
再び、二人は頭をしっかり下げた。
「とは言われてもな、、、」
藤堂はじめ、今日の審査員たちは困り果てている。
「へえ、面白そうじゃん。藤堂さん。それ、やらせてみては?」
三人と周りの人たちはその声のする方へ向いた
すると、スーツ姿でシャツの上のボタンを大きく開けた。
少し、チャラそうな男が立っていた。
「斎藤(さいとう)。遅かったな、、、」
「悪い悪い。ちょっと、車こんじゃって。
あ、審査員の皆さん。遅れてすいません。渋滞でだからご勘弁を、、」
他の審査員とは明らかに若い斎藤は軽く謝ると藤堂の元へ行った
「んで、君か。
その前代未聞な願いを言ってるのは?」
「はい。」
斎藤は友樹を見る。するとしばらくして切り出す。
「なるほど、、でも、君わかってる?そちらの方がみんなにこんだけ迷惑
をかけてるんだ。
このコンテスト入賞しないかもしれないよ?それでもやる?」
友樹は答える。
「演奏者として伝えたい人がいるんです。」
「その人の為だけに演奏を?」
「、、、いや、そして、自分にとってもです。
その曲なら提出した課題曲よりいい演奏ができる自信があります。
相当、無理を言ってるはわかります。お願いします!」
友樹は斎藤に再度頭を下げた
(一人の為だけに曲を変える事はこの状況ではありえない。
でも、この子は、、、、)
「わかった、、、」
「斎藤!」
(藤堂さん、、、彼の熱意はこのうえなく本気みたいだし。
彼は、このコンテストを蹴ってでもってぐらいすべてをかけてるんだ。
させるだけ、させてみてもいいだろ。その、ペナルティーも覚悟の上
だろうし、、、俺からも頼む、、)
「というわけで、この場のみなさん。彼の覚悟はききましたよね?
どうです?やらせてみては?」
審査員の人たちはそれぞれ耳打ちで「本人がそれでいいなら」としぶしぶ
了承し、演奏者達も否定肯定あったが断固反対するものはいなかった
「ありがとうございます、、、」
友樹は斎藤に改めて頭を下げた。
(安心してる場合じゃないよ。こんだけ、人を巻き込んだんだ。
納得いく演奏してくれよ)
そういうと友樹の横を通り過ぎた
「ありがとう、ミスター斎藤」
「リチャード。あんたの生徒かで先輩の息子か。
どうなっても知らないよ。俺は七光りを特別扱いするつもりはない。
あくまで彼という人格を尊重しただけだから」
「わかっている」
「んじゃ!いい演奏会にしましょう。皆さん!
では、後ほど、、」
そういうと斎藤はその場を後にした。
その頃、会場の前には美樹と隆二兄妹がコンサート会場に来ていた。
美樹は暗い表情のままだった。
「遂に来たな。美樹。
これ、友樹がお前と俺にってもって来たんだ。
精一杯応援しよう。」
美樹は暗い表情のまま、軽くうなずく。
「美樹ー!」
二人が振り返ると和人と理央が現れた。
「友樹。いよいよだな」
「あー、緊張する、、、大丈夫かな。あいつ」
二人が今から本番かのように緊張するのを見て美樹は笑う。
すると、和人・理央も安心して笑う。
それを見て隆二は安心する。
「よし、行くぞ。もうそろそろ。時間だ。」
四人は友樹が待つコンサート会場へ入って行った。
チケットの席番を見ながら中に入ってくと、外とは全く別の次元のような
雰囲気があたりをつつむ。
「あいつ、この中で演奏するんだよね?」
「ああ、そうだな。ってか、友樹って改めてすげーな」
二人はさらに緊張していた。
一方、美樹は少し表情が戻り友樹の勇士をしっかり目に焼き付けるべく
一つ深呼吸をした。
すると、会場の証明が落とされ舞台へ証明が照らされる。
木目の床にぽつりとでもたしかな存在感を表す真っ黒なグランドピアノが
鎮座する。
そして、司会者が現れる。
遂に、コンクール本選が始まったのだ。
司会者がこのコンクールの概要や審査員たちの説明をしている中、バックヤー
ドでは最初の演奏者が緊張して控えている。
その周囲にも2番手3番手と緊張している演奏者達の列がなしている。
そして、まだ出番が後の者たちは控室で演奏する曲や構成を考えながら
自分たちの出番をいまかいまかとまっていた。
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