くびかりさん。

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「創作か事実かなんてどうでもいいんだって!くびかりさんは自分の首を捜して、無差別にいろんな人の首を刈っている……そして現在、そんな事件が北の方で起きている!それが大事なことなんだから!」  そうそう、と周囲の友達も同意するので、私は肩をすくめた。まあ、言いたいことはわかっているし、自分でも今のツッコミはどうでもいいことの一つではあるのだ。一応“表向き学級委員で常識人の優等生”の役目を果たしてみたくなったというだけで。  事実かどうか、創作かどうかなんてどうでもいい。ただ話のネタとして、面白い題材であればそれで十分だ。  確かに、首のない死体が出る事件、が最近北の方を中心に起きているのは確かなことである。しかし、それは一ヶ月に一度程度のペースであるし、事件が起きている場所は関東からずっと離れた県ばかりだ。人間の犯人であっても、妖怪や悪霊の類であっても、ここまで来ることなんてまずないだろう。だから何も心配はいらない。怖い話を、怖いねー、と言いながら噂していればそれでいいのだ。どっちにせよ、小学生の私達にできることなど何もないわけなのだから。  それはある種、安全圏の野次馬に徹したつもりになって安堵したいという――現実逃避にも近い何かであるのかもしれなかったけれど。 「くびかりさんが他の妖怪その他と違う点は、不意打ちで襲って来ようとしないってことね」  声をひそめ、いかにも、と言った真剣な顔で巴は言う。 「狙った獲物と会話をしようとするの。首を返せ、首を返せ、さもなくば……ってね」 「ああ、そういうえばこの怪談って対抗神話あるんだっけ。ろくでもないけど」 「そうそう。首を返す、に同意したら首を刈られて殺されちゃうから。その“さもなくば”の方を提案しないといけわないわけ。もし死にたくなかったら、ある言葉を言わないといけない。つまり……」  マジでー!という笑い声と、うっわー怖いー、という微妙に引いた声が沸き起こった。私はといえばどちらかというと後者で、それも“一体誰がそんなやばい都市伝説なんて考えたの”とドン引いた気持ちに近い。  怪談なんて、やっぱりろくでもないものだ。けれどろくでもないとわかっているからこそ、自分達に無関係な“刺激”として楽しんでしまうのも人間心理なのである。そして、多分大人になっても、一定数そういう“別次元の存在”に愉しみを見出してしまう者が一定数存在している。だから、いい年をした大人が炎上狙いで危ない動画を投稿したり、やれくだらない理由で逮捕されたりもするのだ。 ――まあ、仕方ないよね。現実の世界なんて、異世界と違って退屈なことばっかりなんだし。  多分この時、自分が当事者になるかもしれないなんて危機感を抱いていた仲間は一人もいないだろう。当然、私自身も含めて。  だから、自分達は簡単なことにも思い至らないのだ。  実際襲われた人たちだってみんな、“自分は大丈夫だろう”としか思っていなかったに違いない、なんてことは。
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